「VIVANTは事前情報を出さないことで、なかば初回の視聴率を無視した戦略でした。というのも、今年7月、主にTBS系とテレビ東京系コンテンツの配信を行ってきた『Paravi』が、U-NEXT内のレーベルになりましたが、VIVANTはこのU-NEXTでの見逃し・一気見視聴を前提とした作品だったのだと思います。実際、最終話前日と当日の2日間は、U-NEXTでの一気見を促すCMをテレビで放送していました。これまでも、アナザーストーリーをHuluで放送するなど配信サービスへの流入を図る動きは、民放テレビ局ではありましたが、ここまで宣伝やストーリーが戦略的に制作された民放ドラマはVIVANTが初めてではないでしょうか。このような戦略は、今後のテレビドラマの試金石となりうるでしょう」

人気CMの8パターンと
CM作りがうまい企業とは

 しかし、当然3作品のような戦略は大コケするリスクもはらんでいる。関根氏も「事前情報を最小限にする今回の戦略は、コンテンツ(商品)に相当な自信とブランド力がないと難しい」と語り、再現性の低さを指摘した。

「今後も、従来通りのマスに働きかける手法は宣伝広告の基本になります。現在の広告はテレビCM、ウェブ広告、SNSの三つを連携させて、循環させることが重要になっています。テレビでは老若男女のマスに訴え、ウェブではターゲティング広告でターゲットにしっかりリーチ、そしてSNSで拡散させるという戦略が基本です」

 それでは、現在どのような企業のCMが人々の心をつかんでいるのか。関根氏によれば、人気のCMはおおむね以下の八つのパターンに分けられるそう。

(1)商品のみを印象に残す「商品ヒーロー型」(例:Apple Watch)
(2)不動のスターがスケール感ある映像を背景に商品を案内する「エヴァンジェリスト(伝道師)・大舞台活用型」(例:イチロー氏のスーパードライ)
(3)タレントにユーザーとして使用してもらう「登場人物・ユーザーなりきり型」(例:新垣結衣氏のNintendo Switch Sports)
(4)タレントに頼らず、映像と音楽で商品をメッセージする「映像・音楽メッセージ型」(例:ほろよい)
(5)有名タレントを使わず、音楽で工夫する「音楽インパクト型」(例:カップヌードル シーフード)
(6)タレントをキャラクター化し、ブランドと合致した音楽を使用する「タレント・音楽メッセージ型」(例:吉岡里帆氏と千葉雄大氏によるUR賃貸住宅)
(7)タレントに頼らず、印象に残るストーリーで共感を獲得する「ストーリー共感型」(例:カロリーメイト)
(8)タレントを起用し、ドラマのようなストーリーを展開する「タレント・ドラマ仕立て型」(例:auの三太郎シリーズ)

 関根氏が代表を務めるCM総研は、1989年以来、CMに関する好感度調査を行ってきたが、この調査からさらに具体的な消費者の嗜好(しこう)がわかるという。

「弊社のアンケートでは、『出演者・キャラクター』『音楽・サウンドが印象的』『ユーモラスな所』『ストーリー展開がおもしろい』『企業姿勢にウソがない』などのCM好感要因15項目を回答者に選んでもらっていますが、調査開始時から、一貫してトップの好感要因は出演者です。一方、変動したのはユーモラス。00年代まではユーモラスが2位でしたが、10年以降は『商品にひかれた』という項目に抜かれ、現在では音楽にも抜かれました」

 この変動には、大きな時代の変化があると関根氏は分析する。

「日本の経済成長は約30年止まっており、企業としてもアカウンタビリティー(説明責任)が強く求められるようになりました。すると、短期的な売り上げを達成させるために、商品そのものの訴求をメインに打ち出したCMが増えたのだと思います。さらに、コンプライアンスの重視も10年代からは叫ばれるようになりました。これにより、CM制作で“冒険”がしづらくなり、同時に視聴者の目や嗜好も厳しくなった。その点、好感要因としてのユーモラスが下がったのでしょう」

 こうした時代において、近年人気を獲得している企業CMは日本マクドナルド、au、日清食品、サントリーだという。