「ハグしていい?」性教育で、親から子への“この一言”が大事な理由写真はイメージです Photo:PIXTA

「多様性」を尊重する時代、ジェンダーへの理解や包括的な性教育が求められている。セクシュアリティーや人権、プライバシー、それぞれの価値観とひも付く複雑な性について、子どもにどのように伝えていけばいいのだろうか。『パンでわかる包括的性教育』(小学館クリエイティブ)の監修者で、立教大学名誉教授の浅井春夫氏に、親子の性教育の向き合い方について話を聞いた。(清談社 吉岡 暁)

子どもに触るのは
同意を取ってから

「多様性」を尊重し、多面的な性への理解を必要とする現代。家庭でも「子どもに正しい性教育の知識を」と考える親も増えているのではないだろうか。しかし性教育をしっかり受けて育ったとは言い難い親世代にとって、性について子に教えることは簡単なことではない。一体、何から始めればいいのか。

『パンでわかる包括的性教育』(小学館クリエイティブ)の監修者、浅井春夫氏によると、性教育は「まず子どもがからだの一部や名称に関心を持ったら、その好奇心にできるだけ寄り添う」ことが重要だという。

「自分のからだはどうしてこんなふうに作られているのか、なぜ男女でちがった性器なのか、素朴な疑問を子どもが投げかけてきたとき、親はうやむやにしないことが大事です。親がここでドギマギしてしまうと、からだの話はなんだか親には言えないことだと子どもが認識してしまう。『どうして、そう思ったの?』『じゃあ一緒に調べよう』とおおらかに、子どもの話に耳を傾けてあげてください。性については教えるというよりも、親子で一緒に話せる関係が重要です。こうした親の姿勢は、からだの話に限らず、将来何でも話し合える信頼関係につながっていくでしょう」

 日本は家庭でも教育現場でも性に関する話題を持ち出すことはタブー視される傾向にあり、諸外国と比較しても性教育は遅れているという。

「日本で最初に性教育の注目が集まったのは1992年。「人の発生や成長」が小学校5年の理科の学習内容に入り、小学校にはそれまではなかった保健の教科書が使用されることになりました。からだや性器の名称なども教えるようになった年です。この年は文部省によって教科書が改定され、『性教育元年』とも言われた年でした」

 保健の教科書が導入された92年以降、全国各地で性教育の研修や学習会が行われるようになった。

「しかし、この30年間、性教育が進化していない要因に、学習指導要領の中の『はどめ規定』があります。『はどめ規定』とは、『学校の性教育では受精に至る過程は取り扱わない』というもので、中学1年生で受精や妊娠を学ぶ際も『はどめ規定』によって妊娠の経過、性行為については教えてもらえない…というチグハグなことになっています。