以上の2つの問題は、デポジット制度の有効性を低下させる要因となる。このため、デポジット制度の導入には特定の地域だけでなく、できるかぎり広い範囲の地域での実施が有効性を高めるうえで重要になるだろう。
デポジット制度が使えない廃棄物では
一部の不法投棄者に高額罰金のケースも
デポジット制度が導入されると、廃棄物を回収拠点にもちこんだ人にはあらかじめ製品価格に上乗せされていた預託金が返還され、そうでない人には返還されない。このため、廃棄物を回収拠点にもちこまない人、すなわち不法投棄をしたり有害廃棄物などを普通ごみに混入させて排出したりする人にだけ、間接的に罰金を科していることと同じになる。
また、不法投棄者を取り締まるための防犯カメラの設置やパトロールなどの余分な費用も、デポジット制度では必要がない。不法投棄が行われると預託金が還付されないので、それを不法投棄などで生じる環境汚染の原状回復用の財源として使えるメリットもある。
いっぽう、家庭から排出されるごみのように、廃棄物の分別が容易でない場合、デポジット制度の活用は困難である。この場合、不法投棄に対して適切な罰則規定の整備が必要となる。
しかし、すべての不法投棄行為者を特定することは困難であり100%の確率で逮捕はできないので、逮捕確率を考慮したうえで罰金額を設定しなければいけない。なぜなら逮捕確率が低ければ、不法投棄を行う者には、自分が被る罰金や失う社会的信頼などの不利益の期待値が小さくなり、不法投棄をやめるインセンティブが低くなるからである。
さらに、最適な罰金等の水準は、環境汚染の原状回復費用も含む外部費用(環境汚染などの被害額)を反映して設定する必要がある。
有村俊秀・日引 聡 著
不法投棄を適切に抑制するとの観点からは、不法投棄者にとって不法投棄の期待不利益が、外部費用以上になるように罰金を設定する必要がある。つまり最適な罰金の条件は、
(最適な罰金)≧(外部費用)÷(逮捕確率)
となる。たとえば外部費用が1億円で逮捕確率が50%の場合、1億円÷0.5=2億円が最適な罰金の下限値となる。逮捕確率が高くなれば科すべき罰金の下限値は低くなり、逮捕確率が低くなればなるほど、罰金の下限値を高く設定することで不法投棄をしないインセンティブを強める必要がある。
つまり、デポジット制度の実施が可能であれば、できるかぎりデポジット制度を実施。困難な場合は不法投棄の取り締まりと罰金を組み合わせた対策の実施が望ましい。