建設業界は昔から、「きつい」「汚い」「危険」のいわゆる「3K」の典型的な職場といわれていた。それに加えて、非常に長い労働時間と、少ない休日が輪をかける。24年4月から、時間外労働の上限は原則月45時間、年360時間までになるが、現状は半数の業者がこの年360時間の残業時間を超えているのだ(図3)。

「人材が不足している中で、このまま24年になって労働時間もさらに減らさなければならない状況になると、工期は長くなり、それがコストの上昇につながり、住宅価格や賃料に跳ね返ってきます。それだけでなく、例えば災害時の復旧工事やインフラのメンテナンスなどにも支障が出てくるでしょう。

 建設業界の仕事は私たちの衣食住に密接に関わっています。その基幹産業が機能を果たせなくなってしまうということは、業界の課題であると同時に、社会課題でもあるといえます」

アナログが中心の職場環境

DXが拓く建設業の未来、デジタル化で500万人の労働環境を改善せよ!岡本杏莉(おかもと・あんり)
建設DX研究所代表、アンドパッド上級執行役員経営戦略本部長。日本/NY州法弁護士。西村あさひ法律事務所で国内外のM&A案件を担当後、Stanford Law Schoolに留学。メルカリで資金調達やIPOを担当。2021年にアンドパッドに入社し現職。法務、建設DX研究所の立ち上げをはじめとする公共政策を担当している。 Photo by Hiromi Tamura

 では、長時間労働になる、そもそもの原因は何なのか。岡本氏が指摘するのは、いまだに業界にまん延するアナログ環境だ。

「コミュニケーションの手段は電話とファクスが主流で、事務作業が多く、それも紙が中心です。また特に中小の会社では、人手が足りないため、1人で複数の現場を監督しており、各現場を移動して回るだけで1日の業務時間の半分ぐらいを費やすともいわれています。

 もしオフィスにいながらリモートで現場を監督できるシステムを構築できれば、目に見えて業務の効率化が図れるでしょう」

 60兆円の市場規模と500万人の労働者が従事する巨大産業でありながら、業務のことごとくがアナログで、長時間の残業が当たり前という建設業界。そのため若い人が敬遠し、さらに人手不足と高齢化が進むという悪循環に陥っており、付加価値労働生産性が低いため、なかなか待遇も上がらない。

 少子高齢化が進む中で、劇的に人材が増えるのが難しい以上、業界に根付くアナログ体質を改善しない限り、建設業界の未来は暗いものだといわざるを得ない。

 こうした業界に山積する課題の解決を図り、作業効率の改善や生産性の向上を進めていくことが求められる中で、DXの導入を推し進め、そのための情報発信を行い、業界を横断するディスカッションの場を提供しようと発足したのが「建設DX研究所」だ。

 次回は、同研究所の活動内容の概要を紹介する。