若手人材や高度専門人材を確保するため、金融機関各社が「ジョブ型」の人事制度を導入・運用している。政府も労働市場改革のメニューとして「職務給の導入」(ジョブ型)を打ち出した。人手不足が重要な経営リスクとなるなか、ジョブ型を使いこなして「内部労働市場」を活性化させることが不可欠だ。内部に抱える人材が主体的な学びと成長を求め続けられるよう、人事部門は権限の集中を改め、内部労働市場の“番人”になることが望まれている。
外部からの人材調達が本来のジョブ型の前提
政府は2023年6月発表の骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2023)で、労働市場そのものの「ジョブ型」化を進めることを目標として掲げた。その実現に向けて、「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」を求めている。
ジョブ型とは本来、「ジョブ型雇用システム」を指す言葉だ。これは日本型雇用システムについて論じるために、欧米の一般的な雇用システムを総称する理論モデルであり、特定の国や地域に存在する実在の雇用システムを指す概念ではない。
ジョブ型雇用システムでは、企業が組織各階層において、外部労働市場から人材を調達することを前提としている。働く人材にとっては、職種別または企業横断的な労働市場における転職を伴うキャリア形成等を特徴とする。
国内金融機関などで多く用いられる「ジョブ型人事制度」(図表1)とは、ジョブ型雇用システムの下で想定される人事制度である。人材配置、処遇その他の人材マネジメントを(人ではなく)仕事を軸として行う(注1)。
しかし、理論モデルとしてのジョブ型は、多くの日本企業で導入されているジョブ型人事制度とは乖離している。特に金融機関を含む日本の大企業では、依然として企業の人材調達および人材のキャリア形成は「内部労働市場」(=社内)を中心として動いており、企業内の人材配置の多くが会社都合の異動によって決定されている。報酬・役職等の処遇も、純粋に仕事基準では行われていない。そうしたなか、多くの企業が必要に応じてジョブ型の施策を部分的に導入しているのが実態だ。
金融機関が「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」に取り組むに当たって、理論モデルとしてのジョブ型に振り回される必要はまったくない。自社の人材マネジメントが抱える問題を深掘りし、冷静に実施すべき施策を選択する、言うなればジョブ型を「自社流に使いこなす」姿勢が重要である。