「マザーハウス社内の共通語」をまとめた特製ノートをつくった

山崎 言葉を意識的に使って経営をしてきたのですが、佐宗さんの『理念経営2.0』にも書かれていたように、人数が増えてきて会社のフェーズが変わってくると、それまでとはちがった取り組みもやらねばと感じるようになりました。

それでつくったのがMH語ノートです。MHというのは、マザーハウス(Mother House)の頭文字ですね。つまり、ぼくらの会社内で流通している言葉をまとめたものなんです。

佐宗 おもしろいですね! 具体的にはどんなものなのですか?

職場に共通言語がある会社、みんなの言葉が通じない会社、その違いとは?

山崎 マザーハウスが働くみんなが大切にしたい価値観を表した「32の言葉」を掲載しています。具体的には、「Let me try first」「Meet the new world」「Fairness」などですね。

面白いのは、定義の部分が空白になっていて、自分で埋めていく必要があるということです。もともとアートディレクターをやっていた人が人事にいて、彼女が主導してつくってくれたんです。

佐宗 決まった意味を押しつけるのではなく、それぞれのメンバーが自分なりの意味をつくっていくわけですね。まさに「理念経営2.0」的な発想だと思います。

山崎 でも、じつを言うと、ぼくはずっと「そういうものはつくりたくない」と社内で言っていたんですよね。

佐宗 そうなんですか! なぜでしょう?

山崎 他にならってミッション・ビジョン・バリューを置くようなつまらない会社にはなりたくないと思っていましたし、理念の解釈にはさまざまなものがあっていいと思ったんです。だから当初は反対していたんですが、次第に「そうは言っても、こういうものがあったほうがいいんじゃないか」という声が大きくなりました。ぼくが信頼しているマネジャー陣まで必要だと言い出したんです。

佐宗 そういう議論が行われたのは、創業からどれくらいのタイミングだったんでしょうか?

山崎 10年目あたりでしたね。いまは全社で900人近い人がいて、販売国には400人くらいの人がいるんですが、販売国の人数が200~250人くらいにまで増えたタイミングだったと思います。やはり会社の規模によって変えていかなければいけないことは出てくるんでしょうね。

職場に共通言語がある会社、みんなの言葉が通じない会社、その違いとは?
佐宗邦威(さそう・くにたけ)
株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー/多摩美術大学 特任准教授
東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を創業。山本山、ソニー、パナソニック、オムロン、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、KINTO、ALE、クロスフィールズ、白馬村など、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーションおよびブランディングの支援を行うほか、各社の企業理念の策定および実装に向けたプロジェクトについても実績多数。著書に最新刊『理念経営2.0』のほか、ベストセラーとなった『直感と論理をつなぐ思考法』(いずれもダイヤモンド社)などがある。