(1)壁紙のように薄い太陽電池の登場
まず太陽電池だが、いまは無機(シリコン)の太陽電池が全盛だが、課題が満載である。中国から安価な太陽電池が市場に出回ったことで極端な価格競争が始まってしまい、ヨーロッパ最大手のドイツのQセルズは2012年4月、破産裁判所に法的整理を申請すると発表した(現在は韓国企業の傘下)。結局は、シリコンでつくる太陽電池のコストが高すぎたのだ。私は補助金をつけないと売れないような製品はホンモノではないと思っている。
そこで有機薄膜を使ったペラペラのフィルム状の太陽電池の開発が、いま、世界中で進んでいる。フィルム・ディスプレイと同様、「壁紙のように薄くて曲げられる太陽電池」であり、安価にできる。
有機太陽電池は、電気を流すと光る有機ELとは逆で、光を吸収するとプラスやマイナスの電荷を発生する有機材料を膜状に電極間に形成する。有機ELと同じく、最終的には「印刷」でつくろうとしているから、「究極のテレビ」と同じく「究極の太陽電池」である。
太陽電池が壁紙のようなものでできれば、何が変わるだろうか。まず、窓の上半分に半透明のフィルム太陽電池を貼っておくと、光を少し遮ってくれると同時に発電もしてくれる。デザイン性のよいものであれば机にも貼っておけるし、ドアにも貼れる。スマートフォンに貼れば、電源用になる。
有機薄膜太陽電池は、これからはモジュールにして試験をするレベルに入っていく。有機ELと同じく、有機太陽電池の開発においても最も重要なポイントとなるのは、次に説明する有機半導体の開発にあり、三菱化学をはじめ、日本のメーカーの技術は素材開発の面でかなり進んでいる。有機太陽電池は有機ELに続く有機半導体デバイスのこれからの有望株であり、「ゆっくりと急げ」と言いたい。
(2)印刷でできる有機トランジスタ
有機エレクトロニクスの2つめのアプリケーションが、有機半導体を使った有機トランジスタである。通常、われわれは「トランジスタ」というと、無機材料であるシリコンをイメージする。しかし、シリコン製では「塗って安くつくる」ことはできない。
しかし、「有機材料でできたトランジスタ」をつくることで、軽量でフレキシブル(曲げられる)、大面積化も容易、さらには印刷でつくることも可能となる。用途としては電子ペーパー、人工皮膚センサーなど幅広く、きわめて有望視されている。
また、現在のシリコン製トランジスタの製造には、大がかりな真空装置ときわめて複雑な微細加工工程が必要だが、多くの有機物は有機溶媒に溶かすことで、まるでインクであるかのように扱うことができる。このため、真空装置なしで印刷するという、実にシンプルなプロセスで有機トランジスタの回路をつくり出すことができる。
有機エレクトロニクス研究センターの時任静士グループで開発されたフレキシブル有機トランジスタ回路。これが有機ELテレビの核となる技術で、ロール状に曲げられる150インチ壁掛けテレビなどの基礎技術となる。