有機のフレキシブルトランジスタには追い風も吹いている。現在、液晶パネルや有機ELディスプレイには、ITO(Indium Tin Oxide)という物質が透明電極の部分に使われている。このIは「インジウム」という希少金属のことで、世界最大の産出国は中国であり、最大の消費国は日本である。こうした希少金属は非常に高価なだけではなく、政情などを勘案すると、今後、安定して入手し続けられるという保証はない。

 同じく、酸化物半導体IGZO(イグゾー)は、シャープの液晶だけでなく、LGの55インチ有機ELテレビのディスプレイに使われている画期的な技術である。しかし、残念ながらこのIGZOのIも希少金属の「インジウム」を示している。できれば希少金属を使わないで済ませたい。もし、有機半導体を使ったフレキシブルトランジスタができれば、有機ELテレビのIGZOを有機トランジスタに置き換えることも可能だ。
 さらに、有機半導体に変わることでいいのは、溶液状にして「印刷方式でつくれる」というところである。印刷で大量にTFTアレイを製造して、フレキシブルトランジスタを印刷でつくっていく。印刷するだけだから、きわめて高速・大量に、そして非常に安価にできる。

 「高価格」なままでは顧客層が限られていて、補助金などがなければ買ってもらえない。シリコン製の太陽電池は「電気の缶詰」みたいなものだから劇的に安価にすることは期待できないが、有機材料を使えばインク化し、印刷方式でトランジスタをつくれ、一気にコストダウンできるのだ。

 究極は「安くて素晴らしいもの」だと思う。その究極を目指すには印刷でできるフレキシブルトランジスタを開発することである。

(3)「照明」に革命を起こす有機EL

 私は、有機ELとLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)を「究極の光源」と思っている。この両者は、使っている素材が無機物か有機物かの違いだけで、基本となる発光原理は電流駆動型で同じである。

 では、「有機物が光る」とはどういうことなのか、単純に言えばピンクや黄色に光る蛍光ペンがある。それに電気を流して光らせているのである。そして、素子そのものが非常に薄いものであり、「面状」に光る。有機ELではRGB(赤、緑、青)という光の3原色が出せ、白(光の3原色をすべて含んだ色で、照明に使える)や黄色、ピンクなどいろいろな光も出せる。
 LEDと有機ELは素子の構造も似ているが、大きな違いは、「有機ELは面状に光るが、LEDは点状に光る」ことである。

第3回<br />10年後の世界を変える<br />「有機エレクトロニクス」の全貌米沢の「吉亭」(上)と金剛閣(下)に設置された有機EL照明