企業が真に価値を創造・継続・発展させていくためには、時間軸や価値構造を拡張し、将来を見据えた「統合思考」で経営を実践していくことが重要となる。書籍『【実践】価値創造経営』では、これからの時代に対応する企業価値創造のための経営管理の考え方、フレームワーク、実践手法、そのツールとなるテクノロジー、価値創造経営への変革マネジメントについて解説している。

なぜいま「価値創造経営」が求められるのか〈PR〉photo AC

過去の延長に未来はあるのか

 S&Pによる次の10年間の変化予測によると、1970年代後半には 30年~35年だった企業の平均寿命は、2020年の「20年間」に短縮され、2030年にはさらに平均5年以上短くなる可能性が予測されています。

 このような激動のさなか、欧米では2006年の国連によるPRIの提唱、国内では2015年のGPIFによるPRI署名を契機に、投資意思決定プロセスにESG要素を組み込む動きが拡大しており、国内外でサステナビリティをめぐるさまざまな動きが加速しています。また、統合報告書に代表されるように、長期的な企業価値創出の観点から、非財務情報を開示する動きが広がっています。

 こうした環境下で、過去に着眼し、従前の前提に基づいて、「結果管理」「経済価値管理」に留まることは、環境や、社会的要請、開示内容の変化に対応する手法として適切なのでしょうか。

 経営の本質は、「現在の業績を管理すること」でもなければ、「経済価値だけを高めること」でもありません。経営の本質が、「企業価値を高め、企業の未来を創ること」であるならば、不確実性が高まる中で、経営は、果たして「過去の延長に未来がある」という前提に立ち続けてよいのでしょうか。

開示制度の変化は、経営者の「成績表」の変化

 東京証券取引所が2023年3月に全上場企業に資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を要請したことは、経営が、非財務領域まで踏み込まないと「真のマネジメント」ができない時代に変化していることへの危機感の表れでしょう。

 また、各地域で開示制度が改められ、開示対象範囲が非財務情報に広がりつつあることは、将来の社会的・環境的価値を意識した経営を行わないと、持続的な企業価値向上が見込めない、つまり、「環境・社会配慮は企業活動の必要条件であり、むしろ利益追求にも資するもの」と考える世界線に既に企業経営が踏み込んでいることの証左です。

 日本版会計ビッグバンの時がそうであったように、経営者の「成績表」に相当する開示制度が変われば、それに併せて経営も変わる時、変える時が到来している、と筆者は考えています。

 これらの潮流は、グローバルで発生しているものですが、注目すべきは、日本においては特に課題の深刻度が高いことです。

 2022年3月に内閣官房が公表した「非財務情報可視化研究会の検討状況」では、「米国市場(S&P500)の時価総額に占める無形資産の割合は年々増加しており、2020年は時価総額の90%を無形資産が占める。即ち、企業価値評価において非財務情報に基づく評価が太宗を占めている。日本市場(日経225)は、有形資産が占める割合が大きい」と分析されています。これは、海外企業に比べて日本企業が無形資産の価値向上に注力出来ていないことを示しています。