妊娠高血圧症候群(HDP)をご存じだろうか。
以前は「妊娠中毒症」と呼ばれていたもので、妊娠20週以降、分娩12週の間に、上の血圧(収縮期血圧)が140mmHg以上、あるいは下の血圧(拡張期血圧)が90mmHg以上に上昇する状態を指す。
自然妊娠でも妊婦の5~10%に生じるが、近年の研究から排卵誘発、人工授精、体外受精/顕微授精(IVF/ICSI)などの不妊治療が、HDPの発症リスクであることがわかってきた。
15万人規模の健康情報とゲノム情報を統合したバイオバンクである「東北メディカル・メガバンク計画」では、不妊治療とHDPとの関連を調べている。
調査に協力した1万2456人中、不妊治療を受けた女性は598人で、35歳以上は310人だった。また、HDPの発症率は不妊治療群の14.5%に対し、自然妊娠群は9.4%だった。
解析の結果、不妊治療のHDPに対するリスクは、自然妊娠と比較し1.34倍に、双子以上を妊娠した場合は、3.21倍に上昇することが示された。
注目されるのは、不妊治療群では、一般的なHDPの危険因子とされている過体重(体格指数25以上)と喫煙歴がなくても、発症リスクが上昇していたことだ。
研究者は、排卵誘発剤の影響や凍結胚使用によるホルモン環境の変化などを指摘しているが、まだ不明点が多いとしている。
確かなのは、不妊治療はHDRの発症リスクであり、治療中からきちんと血圧を管理する意識が大切だという点だろう。
実際、件数こそ少ないものの、日本の妊婦死亡の14%はHDPが原因であり、分娩直後~数カ月間は、HDPに関連した脳卒中の発症リスクも上昇する。
2022年4月、「一般不妊治療」および「生殖補助医療」が保険適用された。今後、不妊治療件数が増えると思われる。治療の性質上、当事者は中年期目前で、年齢的に高血圧リスクが高い。
不妊治療を選んだら、夫婦で禁煙、減塩を心がけ、ストレスをためず、血圧を安定させていこう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)