意思決定の「ジレンマ」を打破する
「経験豊富な本能型」の強み

 ではここで、ちょっと考えてみてほしい。

「本能型」のリーダーがかなり経験豊富だったとしよう。多少バイアスがかかっていたとしても、その経験に基づいた「直感」の精度が極めて高かったとしたら――。

 先述したジレンマを解消し、正しい意思決定ができるのではないだろうか。

「本能型が知略型に勝つ」「直感が分析に勝る」という現象の裏側では、こうした「高精度の直感」による意思決定が行われているといえる。

 一口に直感といっても、その精度は人によって異なり、経験を積むことによって研ぎ澄まされていくのだ。「本能型は経験値があればあるほどいい」と入山氏も太鼓判を押す。

 その証拠に、前述したキングダムの麃公は若者ではない。ファンの皆さんはご存じだと思われるが、長いひげをたくわえた百戦錬磨の超ベテラン将軍だ。だからこそ、「突撃じゃあ」と直感で動いているようにみえても、その判断は過去の経験に裏打ちされたものであり、「知略型」による分析を時として凌駕(りょうが)するのである。

 ちなみに主人公の信も、作中では麃公と同じ本能型の将軍として描かれている。だが、最初の頃は勘が外れて戦に負け続けていた。そこで、知略型の仲間である「河了貂」(かりょうてん/劇場版で女優・橋本環奈さんが演じた軍師)がサポートすることでチームがうまく機能し、勝利を積み重ねていく。

 そして物語が進んでいくと信も成長していき、直感でやることが当たるようになってくる。経験を積み重ねることで、信の直感の精度が増しているのだ。

 仕事においても、「現場の勘」「肌感覚」を大切にして成功しているのは、決して新卒や若手社員ではないだろう。ある程度、経験を重ねたメンバーのはずである。繰り返しになるが、「直感力」は成長するのである。

 そして何しろ、ビジネスの舞台である令和の世の中も、キングダムの舞台である春秋戦国時代も「先の見えない時代」だといえる。「知略型」の分析に必要な変数が多い上に、時代の変化が激しく、それぞれの変数が本当に有用なのか判断がつかない。このことも、本能型が意外にも成功を収める一因である。

「不確実性の高い時代は、実は分析をすればするほど当たらず、分析結果に振り回されます。そんなときは分析を捨てて自分の直感を大事にし、それに頼って意思決定した方が実はエラーが少ないのです」と入山氏は解説する。