テクノロジーと人をつなぎ、共創を活性化する
デザインは、人間の行動を注意深く観察することから始まる営みだ。そこから課題を見いだし、製品やサービス、あるいは社会制度の在り方を「人間中心」に変えていく──。思想家のイヴァン・イリイチは70年代に、人間とテクノロジーの健全な関係性の在り方として「コンヴィヴィアリティ(自立共生)」という概念を提唱した。人間が技術に隷属せず、創造的であり続けるためには、人間と技術が「con(共に)」「vivial(生きる)」関係であるべき、というのである。
この考え方は、勝沼氏の「技術を特に意識することなく、知らず知らずに技術に支えられて人間らしい活動ができる状態こそが、成熟したデジタル社会のあるべき姿」という言葉に重なる。さらに、勝沼氏は「大量のデータを縦横無尽に活用し、全体最適と個別最適を高いレベルで両立できることがデジタル化の大きなメリット。その中でデザイナーが果たすべき役割は『人間中心の価値をつくる』『価値を伝える』の2点に集約できる」と語る。
「デジタル化に対する漠然とした不安をひも解くと、『技術を使いこなせない不安』と『技術の正体が分からない不安』に行き着く。これに対しては、徹底的に人間中心に価値を提供できるよう試みるべきで、いわゆるデザイン力が期待される部分。しかし、どれだけ優れた製品やサービスであったとしても、それを提供する企業や政府に対して不信感があると、安心して使うことはできない。技術を社会に実装するには、後者の不安を払拭する丁寧なコミュニケーションも不可欠で、これもデザインで解決すべき大きな課題」(勝沼氏)
もう一つ、未来創造のための重要なキーワードが「共創」だ。
「現在のように複雑化した社会では、どんな課題でも官・民が広く協業して社会の知恵を集めなければ解決することはできない。行政サービスの実装においても、『誰一人取り残されない』ためには、少数派の声をしっかり聞く仕組みが必要ですし、生活者側にも参加意識が求められる」(浅沼氏)
「デジタル先進国として知られるデンマークでは、国政選挙の投票率が90%近くもある一方、日本は55%程度。サービスをただ受けるだけでなく、政策を共に創っていこうという参加意識の強さとデジタル化社会の実現は決して無関係ではない。こうした参加意識を活性化させるのもデザインの役割」(勝沼氏)