岸田首相では
米中首脳と渡り合えない

 筆者が思い出すのは、ニクソン政権で国務長官などを務めたヘンリー・A・キッシンジャー氏のこの言葉だ。

「中国の指導者が、一度きりの全面衝突で決着をつけようとすることは、めったにない。中国の理想は、相対的優位をさりげなく、間接的に、辛抱強く積み重ねることだ」(『キッシンジャー回顧録 中国(上)』岩波書店)

 仮に、台湾で頼清徳政権が誕生すれば、中国は、習指導部の下、武力行使も視野に、着々と軍事力の増強を進め、国内の統制も強化するはずだ。

 すでに、中国軍は、2022年8月のアメリカ・ペロシ下院議長(当時)訪台以降、台湾近海にミサイルを撃ち込むなど予行演習を繰り返している。

 頼氏は副総統候補に、駐米大使に相当する役職を経験してきたアメリカ通の蕭美琴氏を指名しているため、米台関係をこれ以上強固にさせたくない中国は、台湾包囲網をよりエスカレートさせていくに相違ない。

 国内統制でいえば、中国国内に約20万人いるテレビや新聞の記者を、中国共産党の「世論工作部隊」に仕立て上げようとしている点が何ともおぞましい。

 11月4日を皮切りに、習近平思想に関する全国統一試験まで実施し、「台湾統一」などの問題に答えられない記者は排除されるというのだから、言論統制の極みと言うほかない。これらの点では、キッシンジャー氏の指摘以上だ。

 対するアメリカも、中国に甘い顔を見せてはいない。訪米した習氏が降り立ったサンフランシスコ空港には、赤じゅうたんは敷かれず、バイデン大統領やブリンケン国務長官が出迎えることもなかった。特別待遇を一切しなかったことは高く評価できる。

 また、バイデン氏本人も、最後まで、習氏が引き出したかった「台湾独立を支持しない」という言葉を口に出さず、会談後には習氏を「独裁者」と呼んでみせたところは、いかにも老獪な政治家らしい。

 こうしてみると、二人とも実にしたたかだ。このように二枚腰、三枚腰で腹芸もできる政治家と、求心力をなくした岸田首相が渡り合えるとは到底思えない。