VR(Virtual Reality)ゴーグルをつけて、バーチャル・リアリティによって形づくられたアナザーワールド(もう一つの世界)に人間がログインしてしまう。

あたかもこの世とは別のアナザーワールドに紛れこんでしまったかのように、そこで冒険を始めてしまう。サイバーパンクSF小説『スノウ・クラッシュ』のビジョンは、キアヌ・リーブス主演の映画『マトリックス』(1999年公開)やスティーブン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』(2018年公開)といった作品に決定的な影響を与えました。

GoogleマップやGoogle Earth(いずれも2005年からサービス開始)は、『スノウ・クラッシュ』に出てくる「地球」というマシーンから着想を得て実用化されたそうです。メタバースの世界は、カセットゲーム時代の『ドラゴンクエスト』のように「すでにでき上がった完成品」ではありません。ネット上にオープンソースとしてアップロードされた世界は、ユーザーがいくらでも作り換えることが可能です。ユーザーがログインすると、メタバースの世界をアバター(avatar=分身)が自由自在に移動できます。
 
『マトリックス』のキアヌ・リーブスのように空を飛ぶこともできれば、アバター同士 がメタバース内で話をすることもできるのです。やや時代を先取りしすぎたせいで失速してしまいましたが、2003年にはアメリカのリンデンラボというベンチャー企業が『セカンドライフ』というメタバースをリリースしました。『セカンドライフ』が失速してしまった一つの原因は、通信速度の遅さです。

メタバースでの冒険を楽しむためには、瞬間的に大量の情報を処理できなければなりません。今のように4Gや5Gという高速回線がなかった2000年代は、『セカンドライフ』の世界を現実と見紛うほど精巧に設計するわけにはいきませんでした。

ログインしてみると、既存のゲームより見劣りする安っぽい画面しか現れず、途中でフリーズしたりノロノロ運転になったりしてしまう。これではユーザーが離れてしまうのは当然です。2010年代後半に入ると、メタバースをめぐる状況は一変しました。パソコンやスマートフォンのスペックが2000年代とは比較にならないほど爆上がりし、常時接続の高速回線が当たり前のインフラとなり、高精細の動画を何時間連続で動かしてもフリーズしなくなったのです。
 
2002年に初号機がリリースされた『ファイナルファンタジー』(のシリーズ初のMMORPG)、2020年に発売された Nintendo Switchの『あつまれ どうぶつの森』など、メタバース的なオンラインゲームは人々を魅了します。