三木氏はKADOKAWA出身の敏腕ライトノベル編集者であり、「物語」を生み出す作家をプロデュースするプロだ。地元・徳島で三木氏が登壇したイベントに参加した岸上氏は、サイン会の列の最後尾に並び、その場で弟子入りを志願する。無論、その場では断られたが、名刺を交換し、記されたメールアドレスに自身の事業や会社の概要、資料に加えてやりたいことをまとめたメールを送ると三木氏から「一度会ってみよう」と返事がやってきた。

「三木さんは『自分も忙しいから、直接教える時間は取れない。だけど、自分の横にいて、自由に学んでもらうならいい』と言ってもらえました。それで、鞄持ちとして、週に3〜4日、時間をみて三木さんの側について回りました」

「作家さんとの打ち合わせでは、新作の構想から連載しているものの続きまでいろいろな場面に立ち会わせてもらいました。三木さんが好むのは、まとまっている人ではなく、荒っぽくても尖っている才能の持ち主です。彼らが持っている才能を世に送り出すこと、徹底的に奉仕することが自分の仕事だと思っている。クリエイターへの敬意を徹底的に払う。そして、それを変に隠すこともありませんでした。素性のよくわからない僕にも実際に超がつくほど有名なゲーム会社の方や、編集者も紹介してくれたのです。三木さんのおかげで、ぼんやりした構想はやがて、現実になっていきます」

世界で勝負するために「無国籍性を強調する」

岸上氏が一つの理想としたのは、彼が好きな小説家・辻村深月氏の作品、特に初期の本格ミステリーと学園ものを組み合わせた作品群、そしてかつて熱中したサウンドノベルを掛けあわせるというものだった。VR市場のどこにもなく、かつ旧来のゲームでは表現できないような臨場感と没入感をユーザーに味わってもらう。

社運をかけた勝負作にして、経営という現実的な観点からみて成功すれば事業継続、失敗すればそこで終わりという作品、それが『東京クロノス』だ。

「三木さんはどんな場面でも、一番大切なのはキャラクターだと言っていました。ストーリーが良くても、キャラクターに魅力がなければ読者はついてこない。キャラクター設定に少しでも甘いところがあると、徹底的に指摘していました。僕もその影響を受けています。三木さんにも相談しながら、『東京クロノス』のプロットは、僕も参加して作り、ストーリーはこの人だと決めた作家に依頼しました。問題はキャラクターデザインです。VRで売れていくためには、日本市場だけでなく世界を意識しなければいけません」