逆にじっくり、本当に関心を持って話を聞いてくれる相手には、進んで話してみようと思うようになります。すると、どんどん話が弾んでいき、話しているうちに自分の中でも新しい発見が生まれることもあります。

このように、実は「聴き方」でコミュニケーションの質はとても左右されます。しかし私も含めて、聴き方について教わることはあまりなく、知らずにずっと来ている人は多いでしょう。これは実にもったいないことです。聴き合うことが大切だと私が主張する理由のひとつは、「聴くこと」と「話すこと」のセットでコミュニケーションが成立するのに、話し方ばかり磨くのはチャンスロスがあると考えるからです。

話を聴いてもらうことで自分の考えに気づく

じっくり話を聴いてもらいながら話すことで、話し手は、「それまでどこか自分の中にあったけれども、言葉になっていなかったこと」をあらためて言葉にすることができます。

仕事のことやキャリアのこと、あるいはプライベートなことでも、私たちには「自分は何を大切にしたいんだろう」「なぜこんなにモヤモヤするんだろう」と悩む場面が日常的にあります。ただ、それを独りで考えていても、何かに気づけることはほとんどありません。

ところが、じっくり話を聴いてくれる相手がいれば、話は別です。たとえば「なんかモヤモヤするんだよね」としゃべっているうちに、「自分でやりたいと言って手を挙げたプロジェクトなのに、やり始めたらすごく面倒くさいと気づいてしまった。自分のためにも、このプロジェクトはやり遂げた方がいいことは分かるけれども……」という葛藤がそのモヤモヤを生んでいたことに気づく、などといったことが起こります。

仕事上だけでなく、恋愛などのプライベートでも同じようなことはあります。気が置けない友人とおしゃべりしているうちに、日頃、言動が何となく気になる人のうわさ話になり、話が進んでいく中で自分がその人のことを好きだったと気づく、といったケースも、話を聴いてくれる相手がいるから起こることです。

私たちは、独りで考えたり、日記のようなものに書いたりしても、なかなか自分の考えや感じていることには気づけないものです。話す機会があることでやっと言葉になり、自己理解ができるのです。

ところが話を始めた瞬間に「バカじゃないの」と相手から言われたり、目上の人や上司から高圧的に対応されたりすると、そうした葛藤は口にすることはできません。変に励ますのでもなく、否定するのでもなく、ただただ聴いてもらうことで、思いは言葉になり、だんだん自分の考えが分かるようになります。