誰と組んでいても、どんな状況にあっても「絶対に大事にしたい自分」というのがあることも分かってくるでしょう。あるいは、すごく大事な自分の一面と思っていたことが、別のプロジェクトに入ったときに、それほど自分の本質と関係なかったと分かることもあるでしょう。「嫌だ嫌だ」と言いながら、結構仕事をやり切っている自分に気づくこともあるかもしれません。

多様な関係性の中で自分のいろいろな面に気づき、少しずつ理解を深めていくことは、仕事をやりやすくしたり、力を合わせて仕事をするいろいろなタイプの人との幅広い相性の作り方にもつながるでしょう。自分が譲れないポイントや大切にしていることを、より深く納得する機会もあるはずです。そのためにも、人との対話、聴くこと・聴かれることというのは欠かせないものだと思っています。

エール取締役 篠田真貴子氏
 

イノベーションを起こすには多様なメンバーの違いを聴き合う必要がある

ここまでは1対1のコミュニケーションの話でしたが、こうした聴き合うコミュニケーションを組織のみんなができるようになると、何が起こるのでしょうか。

今、多様性を大切にしようという考えが重視されるようになっています。今まで通りに過去の人たちがやってきたことをなぞるのではなく、新しいことをやってイノベーションを起こしていくことを求められる時代に、多様性を価値に変えること、力に変えることは必須となっていくと思います。

話が抽象的なので、従来型のルーティンで同じことをやることが求められる業務と比較してみましょう。工場の業務でも伝票を打ち込むデスクワークでもよいですが、作業者が5人いたとして、1人1人の理解や受け取り方が違って、違うものが出来上がるのはまずいわけです。ですから、従来のマネジメント層や経営者は、1人1人に個性があり、違う理解をする可能性があることは分かった上で、同じ理解になるようにそろえるべく、研修や指導に時間を使ってきました。

これと対比すると、イノベーションを起こすというのは全く逆のことになるでしょう。何もないところから新しいものを生もうとしているのですから、そこに集まる人は、同じプロジェクトに参加していながら違う見方をすることが大切になってきます。

同じプロジェクトに関わる5人が、同じ1時間のミーティングに参加したとしましょう。ミーティングの後、1人ずつに「今のミーティングはどうだったか」と尋ねたら、きっとみんなが違うことを言うはずです。みんなそれぞれ違う人なわけですし、役割も違うのですから、とらえ方が違うのは、それは当たり前でしょう。