人の話を聴くことでも自分を知ることができる

じっくり聴くことは、話し手だけでなく、実は聴いている側にもとても良い効果をもたらします。

人の話をじっくり聴くことが少しでもできるようになると、たとえば「同じプロジェクトをやっていても、こんなに感じ方が違うんだ」など、人によって見えている景色がいかに違うか、発見することができるようになります。すると、相手が言っていることが正しいか間違っているか以前に、その違いがどこから来るのかを考えるようになり、その差異を通して、聴いている側も自分のことが少し分かるようになっていくのです。

聴くこと・聴かれることは、自分とは違う考え方や感じ方をしている人のことを、今までよりもう一歩ずつ、よく分かるようになるということです。そしてこの“自分とは違う人”の中には、実は“自分の知らない自分”も含まれます。自分が普段知っていると思っている自分と、本当に感じている自分との間には、常にかなりのズレがあります。そこを理解するために欠かせないコミュニケーションの方法の1つが、聴くこと・聴かれることなのです。

これを「対話」という言葉で表現することもあります。対話という言葉はいろいろな文脈で使われます。しかし、どの文脈で使われていたとしても、その本質は「自分と相手の考えや価値観が少し違う」というときに、言葉を交わし、聴き合うことにあります。

そうすることで、まず互いに「自分がどういう考えだったのか」を理解し、それを通して相手のことも、共感とはいかないまでも「なるほど、そういうことを考えているのか」ということが分かるようになります。対話とは、そのためのコミュニケーションのスタイルであり、技術であると思っています。

聴くこと・聴かれることで自分自身をより深く理解する

聴いたり、聴かれたりする「対話」の方が、内省より自分の状態や相手のことを言語化しやすいのは、そこに反応があるからです。もちろん、書くことも「書いている自分」と「読んでいる自分」との対話にはなります。書き付けたものを見て、それが新しいインプットとなって考えが深まったり進んだりすることもあるでしょう。

ただ、私たちはみんな、いろいろな面を持っていますから、話をする相手との関係によって違う面が出てきます。独りでいるときの自分、家族でも相手によって違う自分の面が出ますし、職場では相手によって異なる自分が現れているはずです。そういう自分の多面性を知ることは、「自己理解」の1つでもあります。

特に仕事ではいろいろと追い込まれたり、逆に喜びがあったりして、違う自分が現れる場面が多くなるでしょう。プライベートな生活だけではなかなか出会わない、自分が選んだわけではないメンバーや上司とも力を合わせなければなりません。そんなとき、自分のさまざまな面を認識できていた方が、やりやすいはずです。