逆に協力者が現れたとき契約をどうするかなど、未成年であるからこその問題もあります。社会変化とともにリスクの種類も変わってきて、学校が事前に把握してすべてのリスクに備えることは大変難しいです。
品川女子学院の場合、入学説明会で「失敗ともめ事を大切にする学校です」とお伝えしているので、「それも経験」と理解してサポートしてくださるご家庭に恵まれています。起業家教育に関しては理解を得るまでに10年ほどかかりました。
馬田:最後の「教員の教育」は。
漆:起業家教育は、企業の方々や保護者、そして生徒との橋渡しをする、いわばプロジェクトマネージャーが欠かせません。それを教員が担うわけですが、正解主義の従来型の教職課程を経た人たちが、いきなり何が起こるか分からない、正解のない起業家教育をするなんてなかなか難しいですよね。教員のアンラーニングは欠かせません。
「校外には校内の価値観やルールとは違う世界がある」を前提に、協働するときはどうするとよいのか、大人の言葉を生徒たちにどう分かりやすく通訳すればいいのか、教員も体験しながら学び、身につけていきます。私たちがこうしたプログラムを継続できるようになるまでには、先ほどお名前を出したような多くの方の協力がありました。
特に、校外の方と教員がチームティーチングできるようになったきっかけは、当時、民間人校長だった藤原和博さん(2003年から5年間、民間人として東京都初の公立中学校校長を務めた)の「よのなか科」の授業でした。
藤原さんのリーダーシップで校外の方々と授業やワークショップを校内で展開することにより、教員が経験を積んでいきました。例えば、東宝の映画「告白」を題材に、主演の松たか子さんや監督に来ていただいて、内容の意味を深めるワークショップを実施したこともありました。教員たちはそうした過程で得た知見を起業家教育で発揮しています。
起業家教育でHowだけを追い求めてはいけない理由
馬田:元も子もない話ですが、お金やインセンティブを強く打ち出したほうが起業する若者は増えます。しかし、それを教育で行うことには賛否両論あります。私は、学校で広く起業家教育を行うのであれば、その目的は「起業家を増やす」ではなく、「起業家性(アントレプレナーシップ)を育む」という位置づけがいいのではないかと思っています。漆さんはどう思いますか。
漆:人口減少社会になっていくなか、一人ひとりのパフォーマンスを上げないと日本はもちません。その元になるのが起業家教育で身につく、0から1を生み出す発想力と実行力だと思っています。