PMFしている事業であったとしても、十分に大きなTAMと強い経営陣の両方が求められたり、これまで以上に再現性の高いエコノミクスとトラクションが求められたり、といった話をよく耳にするようになりました。ラウンドに関わらず、資金調達を成功させるために必要なジグソーパズルのピースが1つか2つ増えたような感覚です。ざっくばらんに表現するとすれば、「めちゃくちゃいい会社には投資するけど、まぁまぁの会社へは無理して投資はしないよ」という投資家の割合が増えたように感じました。

バリュエーション水準が下がり、投資の仕込み時にも思えるこのタイミングでVCのお財布のひもが固くなるというのは、VC経営者側の立場に立ってみると、よく理解できる現象です。第一の理由は、新規ではなく既存の投資先を支援または延命するためにも、一定の資金を手元に残しておくというオプションの価値が高まったということ。「既存投資先のためにお金を確保しておきたいので、一旦、最近は新規投資をストップしている」と明言するキャピタリストもいました。

第二の理由として、VCもスタートアップと同様に次のファンドレイズという意味で資金調達しないといけないため、思うようにLP投資家からの出資が集まらないバッドシナリオを一定程度は想定せざるを得ないという状況があります。もしも、この不況がさらに悪化したり長期化したりした場合に手元のファンドで数年はやりくりしないといけない、という想定をVCが持つのは、ごく自然なことでしょう。こういった前提を踏まえて、起業家が資本政策を練り直す必要が生まれた1年だったと言えるでしょう。

2022年に注目した・盛り上がったと感じる領域、テーマ、テクノロジー、プロダクトなどを教えてください。

・クリプトショック
Three Arrows CapitalやFTX等の破綻は、リーマンショックやエンロンショックを彷彿とさせました。「金融の歴史で起きたことの多くは、クリプトの世界でも必ず起こる、しかも超特急の早回しで!」ということを皆が感じたのではないでしょうか。

・SaaSのマルチプル消失
上場しているSaaS企業の株価が大きく下がったこと、それに連動して未上場SaaSスタートアップの評価が劇的に下がったのが印象的でした。大型調達した資金を原資にバーンレートを大きく上げてトップラインを伸ばす、というSaaSの王道的な成長戦略が、限られた一部の企業にだけ許された選択肢になったと考えてます。レイター以降の企業においては、PSR(株価売上高倍率)という言葉がすっかり過去のものとなってしまいました。