事前に先日出版されたエッセイ『アンクールな人生』を読み、この日の講演を聞いたが、自分の思いをはっきり言う人、という印象を受けた。近年よく使われる「自己肯定感」という言葉には「言葉が一人歩きしている印象」と語り、次のように話した。

「明石家さんまさんの『生きてるだけで丸儲け』は良い言葉だなと思っていて。私は自己肯定感が高いと見られがちなんですけど、全然高いわけじゃなくて、実は低いんです。だから『朝起きられて偉いじゃん』といった感じで生きていて、『ここまでしかできない。もっと自分はできるのに......』とならない。だって、できると思ってないから。できたときは『よっしゃー』となりますけど、できなかったときも『まあまあ、私はこんな人間ですよ』となる。くよくよし続けてたら馬鹿らしいと思いません?」

いい意味での割り切り。講演後に、弘中さんを直接取材すると、時折笑顔を見せるも、目がどこか笑っていない。そんなヒヤッとする感じがあった。

さらに弘中さんは自分に対してだけでなく、他人に対しても割り切っている。

「『今と自分は変えられるが、過去と他人は変えられない』という言葉があるじゃないですか。まさにその通りで他人は変えられない。職場の人間関係で悩んでいる人は多いですけど、上司や先輩たちがどう思うか、どう考えるかは変えられるわけがない。私は自分がコントロールできない部分に関して、ストレスを抱えるのはやめようと思っているんです。余計なエネルギーを使わなくていいし、自分の心を守れる。みなさん他人に惑わされすぎです。他人は変えられないので」

背伸びしない、期待しないからこそ自分を守れる。テレビ番組での印象とは違い、かなり諦観しているとわかる。そして、そうした考えだからこそ「自分としてはすごくストレスフリーで楽しく生きていけている実感がある」という。

さらに弘中さんが面白いのは、仕事での目標が特にないということだ。メディアの取材、さらにこの日の講演など、人から今後やりたいことや目標を聞かれる機会は多いが「全然目標がないんです。本当に申し訳ないんですけど」と笑う。

よりよい仕事、よりよい場所へという上昇志向、自己啓発とはつくづく真逆の考え方。でも、よく考えれば私たちは仕事での自己実現、やりたいことがないと生きられないという考えに縛られすぎているのかもしれない。

10年のアナウンサー、キャリアで意識し続けた言葉は「信頼」

アナウンサーという仕事を始めて10年。「やり尽くした」とも感じている。