もう1つ、法律的にSOを付与しにくいという状況があります。

ソフトバンクは海外の従業員も多く、確実に株式報酬を出しているでしょう。ただ、それは擬似的な株式報酬、つまりファントムストックと呼ばれる株価連動型の現金報酬も含まれていると思われます。海外の居住者に日本のSOを渡すのは、金融商品取引法(金商法)や現地での税金の問題などがあり、大変難易度が高いためです。しかも、どれだけ調べても、法的に不確実なところが残ることが多いです。そうしたリスクを負うのは報酬の効果に比べてバランスが取れないので、ファントムストックで報酬を渡すことがあるのです。ただ、この方法ではキャッシュアウトを伴うため、会社のPL(損益計算書)は傷みます。

また、ある程度のリスクを受け入れてSOを付与しても、日本で非居住者用の証券口座が開設しにくいなどの課題もあります。

政府も「海外人材を積極的に登用しよう」と言っていますが、実質的には株式報酬を武器として海外人材の採用を行うには高いハードルが横たわっており、難しいのが現状です。

法律、スタートアップの慣習はこう変えた方がいい

──SOに関連する法律やルールはどのように変えるべきと考えますか。

日本のSO制度の課題を解決するためには、いくつかのポイントがあります。1つは法律の改正で、もう1つは啓蒙活動、社内に株式報酬の専門チームを作れる会社でなくても、制度を活用できるようにすることです。

法律に関しては、今なかなかないチャンスが来ていると思いますし、国もかなり積極的に動いてくれています。私も自民党の小委員会に呼ばれ、議員さんや全省庁から呼ばれた人の前で話をしましたが、いろいろな人が「どうなればうれしいのか」を聞いてくれて、積極的に意見を拾い上げようとしてくれています。

SOは、1997年の商法改正で導入できるようになって以降、約20年前に権利行使価額の年間限度額が1000万円から1200万円へ引き上げられた以外、使い勝手が大きく改善するような目立った変更はほとんどありませんでした。これほど一気に変わるチャンスもそうそうないので、この機会にいろいろと変えていければいいと思います。

また、スタートアップの慣習も変えなければいけないと考えています。まだ、大多数の会社は「退職したらSOは取り上げればいい」と思っていることでしょう。そのマインドセットから変えていく必要があります。

そもそも多くのスタートアップが、どういうSO制度がいいかを深く考えているわけではなく、私自身もそうだったように、制度を最初作るときにネットで検索して、結果に表示された制度の作り方や契約書のひな形を使ってしまうんだと思います。すると、退職したら失効するし、ベスティングはIPO起算になるし、M&Aされたら失効する制度になってしまう。