加えて慣習上、リバースべスティングの対象とされるのは、持分が少ない方の創業者だけであることが多い。これだと、リバースベスティングそのものが実務上使いにくいだけでなく、信頼関係の面では共同創業者というより、ボス・部下の関係を確定させるようなものだといえる。心から信頼できる人を共同創業者として呼び込む場合も、思い切って創業者株を割り当てにくい、という事情だ。これも、エコシステムが進化するにつれ、変わっていくと予想する。

ツールキットの目的を理解することはエコシステムそのものの理解につながる

ここまでいくつかのツールキットを取り上げて、日米の違いを挙げて解説した。この記事を読んだ起業家に理解して欲しいのは、その違いそのものではなく、個別のツールやツールキットが持つ根幹の考え方やその目的だ。

これらツールの集合体は、スタートアップエコシステムが何十年もの歴史をもつ米国を中心に、何万件もの資金調達を経て進化した結果、今の形に至っている。このツール群を理解することは、スタートアップエコシステムそのものの考え方を理解することに等しいと言ってよいと思う。

初めての起業家にとって、ツールの集合体である投資契約書をすべて読み込むことはなかなかハードルが高いのは確かだろう。そこで、専門の弁護士が書いた入門書が数々あるので、ぜひそれを読むことから始めてみてはどうだろうか。日本国内の調達実務については、できるだけ新しく出版された書籍をおすすめする。米国調達実務についての日本語書籍としては『VCの教科書:VCとうまく付き合いたい起業家たちへ』(東洋経済新報社)が私の推薦だ。そして弁護士の力を借りながらも、契約書の交渉には自ら理解した言葉で臨んでいただきたい。