東京を中心にアイカサ設置駅は拡大している。

傘のシェアリングを事業にするという発想は、どこから生まれたのか。代表取締役の丸川照司氏は、学生時代を過ごしたマレーシアでの経験が大きかったと話す。

「幼少期をシンガポールで過ごしたこともあり、海外への関心はごく自然に持っていました。日本の大学に進学したものの、漫然と過ごす時間がもったいないと感じ中退。マレーシアの大学に入りました。そこでシェアリングエコノミーが身近な暮らしに出会い、UberやAirbnbなどのシェアリングサービスが欠かせない生活をしていました。社会インフラが整っていないからこそ、シェアリングが概念として広がっていた。日本でも、このカルチャーをもっと広げたいと考え、アイカサのアイデアにつながりました」(丸川)

シェアリングエコノミー協会 代表理事の石山アンジュ氏は、アイカサの構想段階から丸川氏と交流があった。日本国内において1年間で廃棄されるビニール傘は約8000万本と知り、その課題意識に強く共感したと話す。

実は日本国内での洋傘の年間消費量は1億2000万~3000万本と世界1位(日本洋傘振興協議会調べ)。そのうち6~7割を占めるのがビニール傘なのだという。

「身近で無駄の多い傘に着目した、意義あるビジネスモデルだなと思いました。ただ、シェアリングエコノミーの中でも傘は低単価で、拡大スピードを上げていかなければ事業として継続が難しい。難易度が高い分野だと思いましたが、丸川さんはこの数年でアイカサを急拡大させています。都心ではアイカサスポットのない駅はないのではないかというほど普及していて、サステナブルなスタートアップが活躍しているのはとてもうれしいです」(石山)

一般社団法人シェアリングエコノミー協会 代表理事の石山アンジュ氏

ただ、サービスを開始した2018年当時は、シェアリングエコノミーという言葉の認知度もまだ低く、駅への設置が実現するまでに1年を要した。

転機となったのは、2019年に京急アクセラレータープログラムで採択されたことだった。同じくビニール傘の廃棄に対して問題意識を持っていた福岡市の目に留まり、ともに地元企業への推進アクションを進めていくチャンスを得たのだ。同年5月には全国で初めて駅(西鉄天神駅)への設置が実現。環境問題に対する、企業や社会全体の意識変化に後押しされたと丸川氏は話す。

「『アイカサを設置させてください』と営業に行っても、『自動販売機を置いた方が儲かる』と断られたこともありました。でもだんだんと、ビニール傘をなくすという小さなアクションに賛同する声が増えています。鉄道会社やオフィスビル、大学、商業施設で導入が広がり、企業スポンサードによるコラボデザイン傘の作成も、事業のひとつの柱になりつつあります」(丸川)