「抜擢人事」も積極的に押し進めた。優秀な若い人材を管理職に引き上げたり、新規事業の担当者に任命するようなことにも力を入れた。
また人材配置の適正化と連動して、稟議のフローや予算作成のプロセスも刷新した。従来は「部下のいないマネージャー」や「配下に誰もいない部長」などが存在し、管理職が増えすぎていた。結果として200人ほどの会社にも関わらず「8人の承認を得られないと物事が進まない」ようなケースもあった。
承認が降りるまでのリードタイムが長いほど、事業のスピードも落ちる。そのためフローを変更し、基本的には2〜3ステップで承認が完結するようにし、事業部側が必要だと判断した場合には速やかに前に進める体制を整えた。
「特に管理部門のところに承認が集約されていたので、事業部側に権限を委譲し、その代わりに業績にしっかりとコミットするという方向に変えました。期初の計画や予算も、経営企画が作る体制になっていたのですが、結果的に事業の成長を止めてしまうこともありました。事業計画についても事業部側が作り、それに基づいて動く場合には必要な予算を確保できる仕組みを根付かせるように徹底しました」(石井氏)
既存事業への栄養投下と新規事業で売上は約15億円拡大
TOB当初はコスト削減による赤字体質からの脱却において明確な変化が生まれたが、その後は“適切に栄養を投下する”ことによって売上自体も再び成長軌道に乗り始めたという。TOB前の19年3月期で57億円ほどだった売上は、22年3月期で約71億円。発展途上ということだが、14.5億円(25%)ほど増加した。
この部分は大まかに言えば「既存事業の成長で10億円弱、買収した事業を中心に新しいセグメントによって6億円強の売上が生まれている」(石井氏)状態だ。
既存事業の成長に関しては、コスト削減によって生まれた資金を、西條氏が言うところの「栄養失調だったところ」に回せたことが大きい。
そもそも以前は「(コストが)膨れて利益が出ていなかったので、何を絞るかを考えたときに広告費を絞ってしまっていた」と石井氏が話すように、広告費の回収期間は「一律で3カ月」と抑制されていた。つまり事業の特性に関わらず、3カ月で回収できるようなマーケティングしかできなかったわけだ。
「たとえばカウンセリングであればリピーターの比率が高いので(他の事業に比べて)、広告にある程度の予算を投資をしても、結果的にはそれ以上の利益が見込めます。ただエコノミクスに関わらず一律で3カ月だったため、その投資ができていませんでした」(石井氏)