もう1つのキーワードは「メタボで栄養失調」だ。

ここでの“メタボ”とは、事業において余分にコストがかかってしまっている状態のことを指す。たとえば本来なら1人で担当できるような仕事を5人がかりでこなしていたり、外部に委託する際の費用が必要以上に膨れ上がっていたり。事業を見渡してみると、いろいろなところにメタボな状況が見つかった。

「自分たちの経験や業界の標準を踏まえても、人を割きすぎている部分や、コストをかけすぎている部分がたくさんありました。1番は『この仕事を何人でやるのか』という人件費や人材の配置のところですが、細かいところでは名刺や備品などのコストもそうです。例えばラクスルを使えば500円程度で発注できる名刺も、当時は1箱1500円で発注していました」

「このようなコストは削減しても基本的には社員に被害が及ぶことはなく、浮いた分を経営資源として他の事業へ回せます。まずはこうしたコストの見直しを徹底的に進めました」(西條氏)

当時のエキサイトではメタボの症状と同時に、栄養失調の症状も出ていた。西條氏によると「エコノミクスを分析すると『1投資すれば、5倍になって返ってくる』ような事業に対して、栄養が行き渡らない」状態になっていたという。

要は赤字に陥っていたが故にマーケティングコストが抑制され、本来はもっと伸びる可能性のある事業に対して十分な投資ができていなかったわけだ。

「決算書や有報だけでは何も読み取れなかった」

コスト構造の転換や財務体質の改善という観点からエキサイトの再生をリードしたのが、CFOの石井氏だ。

石井氏は2019年にエキサイトに加わるにあたり、有価証券報告書や決算説明資料といった公開資料を読み込むことから始めた。だがその第一印象は決してポジティブなものではなかったと振り返る。

「そもそもIT業界にいたにも関わらずエキサイトのサービスを使ったことがなく、どんな人が使っているのかもあまり想像できませんでした。業績は数年間にわたって右肩下がりで、事業内容も『(目新しいものがなく)今さらこんな事業か』と感じるところもありました。これを改善するのは相当難しいかもしれない。結構やばいな、というのが正直な印象でした」(石井氏)

ただ実際に中に入ってみると、さまざまなギャップが見つかり、その印象は大きく変わったという。

「ずっと財務経理部門で働いてきて、その観点からいろいろな事業を分解して見てきましたが、今回感じたのは『決算書や有報では何も読み取れなかった』ということです。最初の段階では、これから何をどのように変えていけば良いか、全く思い浮かばなかった」