従来の透湿防水素材における2つの課題

AMPHICOが手がける新素材の概要を理解する上では、従来の透湿防水素材がどのような構造になっているのかを知っておくと話が早い。

透湿防水素材の構造のイメージ
透湿防水素材の構造のイメージ

主な透湿防水素材は2つの層に分かれている。亀井氏によると、多くの場合は表面となる1層目はスポーツ製品などでもよく目にする織物でできた生地が使われていて、その後ろにフィルム状の素材が貼られているという構造だ。

1層目自体が水をはじく機能を持った生地でできてはいるものの、水の圧力が強い場合などは貫通してしまうこともある。その際に2層目のフィルムが存在することで、水の侵入をブロックできる仕組みになっているという。またフィルム状の素材にはたくさんの小さな穴が開いているため、水をはじきながら、汗を逃がすこともできるわけだ。

こうした特徴を持った透湿防水素材は優れた機能性からさまざまなアウトドアウェアに搭載されるようになったが、課題も明らかになってきている。

1つがPFASと呼ばれる有害な化学物質が使用されていること。「水や油をはじき、熱にも強い」といった特性から多様な製品に活用されてきたものの、環境や人体への影響が懸念され、国際的に規制が強化され始めている。

もう1つが「リサイクル」だ。従来の製造方法は「1層目と2層目が違う原料で作られており、それを貼り合わせている」ことが原因で、リサイクルが難しい構造になってしまうのだという。

結果として「皮肉なことに、自然を好きな人たちが使う商品にも関わらず、環境負荷が大きくなってしまっている」と亀井氏は話す。

それに対して、AMPHICOのアプローチは次の通りだ。そもそも有機フッ素化合物に頼らなくてもはっ水性や防水性を発揮する力を表面の生地に持たせ、2層目に貼り付けるフィルムに関しても有機フッ素化合物を使わずに高性能なものを実現する。さらに1層目と2層目を全く同じ原料から作ることで、リサイクルがしやすい構造にする。

そうすることで「(透湿防水素材を用いた)アウトドアウェアに見られた大きな2つの課題を解決する」(亀井氏)というのが、AMPHICOの挑戦だ。

 

ルーツは「材料工学の研究」、日本人起業家がロンドンで起業

AMPHICOの新素材の軸となっているのが、亀井氏が研究してきた人工エラ技術だ。

この人工エラとはどのような仕組みなのか。亀井氏によると「ものすごく簡単に説明すると、水中で膜を使って水の中に溶けている酸素を取り込んだり、人が吐き出した二酸化炭素を水に逃す」技術だという。

「水中で呼吸できる昆虫やトカゲのメカニズムを模倣して研究開発した技術です。体の表面をものすごく薄い空気の層が覆っていて、その層を介して外側から水の中に溶けている酸素を取り込み、二酸化炭素を出すことで水中でも呼吸ができる。(実際の素材に使っている)原料自体は全く別のものなのですが、着想のヒントを自然界から得ています」(亀井氏)