なんとか教材を掲載してもらえないか。試行錯誤した末に幾嶋氏がひらめいたのが「出版社ではなく著者に直接打診する」という方法だ。複数人の著者にブログなどから問い合わせをしたところ、1人だけ、abceedに興味を持ってくれる人が現れた。

『TOEIC TEST 新形式模試 はじめての挑戦』(やどかり出版)——幾嶋氏たちにとって初めてライセンスが取れた教材だ。教材の発売日に合わせるかたちで、Globeeでは2016年5月にabceedの正式版を公開。マークシート機能に加えて、教材の音声をアプリで聞ける音声機能を新たに追加した。

この新しい機能が、abceedの成長を大きく後押しすることになる。

「当時はまだ紙の教材にCDが付属しているのが一般的な時代だったので、音声がアプリで手軽に聞けるということが好評でした。この機能はユーザーを獲得するだけでなく、出版社の方々と接点を持つ上でも大きな価値があったんです。音声コンテンツには興味があるものの、自前でやるほどのノウハウや予算はないという会社も多く、『それを無料でやってくれるのであれば、ぜひお願いしたい』と少しずつ依頼してくださるようになっていきました」(幾嶋氏)

それにしてもなぜ最初がマークシート、その次が音声だったのか。マークシートから始めた背景には「(レコメンドには不可欠な)解答データを集めるため」という目的もあったが、他にも狙いがあったという。

「当時よく考えていたのが『世の中で1番使われている教育関連のサービスやツールは何か』ということ。TOEICの分野においては、マークシートや教材のCD、(リスニングの音声を聞くための)MP3プレーヤーといったツールが頭に浮かびました。TOEIC対策をしている人のほとんどが使っているものだったので、もしそれをリプレイスできれば、実質的に大多数の学習者が使うアプリになるのではないか。そこで第一弾として自動で採点してくれるマークシート機能、第二弾としてアプリ上で無料で音声をダウンロードして聞ける音声機能を提供したんです」(幾嶋氏)

現在はさまざまな機能が提供されているが、もともとはマークシーアプリとして始まっている
現在のabceedは辞書や単語帳、発音採点、文法チェック、シャドーイング、ディクテーションなど英語学習をサポートするさまざまな機能をアプリ上で提供しているが、初期の段階ではマークシートや音声再生など用途や機能を限定したアプリとして始まっている

投資家から何度も言われた「EdTechは儲からない」

出版社との取り組みが広がり始めことに伴って、abceed自体も少しずつ軌道に乗り始めた。幾嶋氏は入社2年目となる2016年の12月にソフトバンクを退職。Globeeに専念することを決める。

2017年には「ビジネス」の観点で大きく舵を切った。1つは同年9月から始めた月額有料プラン(Premium)、もう1つが10月から始めた教材の単品販売だ。