コンセプト実現に向けて、まず必要なのは自動操船ヨットだった。世界中を見渡せば、自動操船に関する技術は実用化されている。ただし、風力を使うヨットなどの帆船を制御する技術は「メジャーではない」(野間氏)という。現存する自動操船ヨットのテクノロジーの多くは海洋調査等に活用されており、長時間とどまる用途から航行のスピードはあまり必要とされていないという。
「私たちは、自動操船ヨットのスピードアップを図ろうとしています。ヨットのスピードはイメージしにくいかと思いますが、世界的レースのアメリカズカップなどでは時速約80Kmにも達するほど。速度向上はハイドロフォイル(水中翼)を付けるなどして実現します。またアプリケーション(応用例)としては海洋調査だけではなく、直近では漁業を楽にするもの、後継者問題の解決や、より収益を上げやすい職業にすることを目指しています」(野間氏)
彼らが最初に打ち出した実用化モデルは、漁業向けの自動操船ヨットだ。これまでの漁業では、人の乗った漁船が魚群探知機を積んで、わざわざ魚を探し回らなければならず、燃料代や漁師の負担が大きい。だが自動航行ヨットを使えば、遠隔で魚のいるポイントをつかんでから漁に出ることが可能になり、ポイントが見つからない場合は漁に出ないという選択もできるようになる。
エバーブルーテクノロジーズでは、魚群探知や海底地形の調査といった実運用を想定し、全長2m級の自動操船ヨット「Type-A」を独自にデザイン・設計・製造。5月に神奈川県の逗子海岸で行われた実証テストでは、海上に設定した2カ所の経由地を半径5mの範囲で経由し、帆走と補助モーターを利用して完全自動でスタート地点に戻るという操船テストをクリアした。
今後、自動操縦帆船をコア技術として他社に提供しながら、自社でもいくつかのアプリケーションを開発しようとしているエバーブルーテクノロジーズ。その1つが先にも挙げた漁業の課題解決だ。現在は、神奈川県二宮町にある二宮漁場の全面的な協力を得て、シラス漁の魚群探知・追跡の自動化で実証テストを行っている。また、現地の詳細な海底地図を自動作成することで、定置網漁における海底地形を知りたいというニーズにも応えていくという。
時間や成果のコミットなし、プロジェクトの求心力で分散型開発
コンセプトの最終形も壮大だが、エバーブルーテクノロジーズが採用している、自動操船テクノロジーの開発手法やヨットデザインの手法もまた、ユニークなものだ。そもそも会社の組織・形態も「従来の企業とは違っている」と野間氏はいう。