無人の「自動海上タクシー」開発も視野に
現在は自動航行できるヨットでどんな課題を解決できるのか、模索しながらトライアンドエラーを繰り返しているというエバーブルーテクノロジーズ。
「メンバーには、半ば強制的にヨット研修を行っていますが、体験することで初めて分かることもあります。追い風で帆走していると、風が止まったように感じる。波の『チャプチャプ』という音しか聞こえず、本当に静かで驚きます」(野間氏)
自転車と同じく、ヨットは動力・燃料が不要だ。野間氏はさらに「人の労力も要らないようにしたい」という。「産業革命で帆船は動力船に置き換わりましたが、それまでは帆船で世界中を交易できていたわけで、帆船・ヨットを使うことにリアリティがないわけではありません。大航海時代には十数人で操船していた帆船が、今の技術を使えば、人はいなくてもよくなる。(障害物があり、細かい法規もある)陸上でも自動運転車が走っているのだから、海なら無人化はもっと簡単に実現できるはずです」(野間氏)
自動操船ヨットの「動力不要で無人で動かせる」特徴を生かした“アプリケーション”は、いろいろ考えられるとして、野間氏は「帆船の可能性にかける」と語る。実証実験で実用化を進める漁業向けのFisherdroneに続き、今後、別の課題に合わせたヨットの開発・提供も目指していくという。
魚群探知のケースでは、例えば無人で船を出すだけでなく、複数の船を同時に探索に出したり、有人船が漁をしている間に次の魚群を探しに行かせたりするなど、さまざまな使い方が想定されている。
また、2m級ヨットの自動操船テストが成功したことで、エバーブルーテクノロジーズでは無人ヨットで人を運ぶ「自動海上タクシー」構想も現実的になったとして、旅客・観光用途の帆船型ドローンの開発にも着手している。「目的地に向かうことだけでなく、サンセットクルーズのように『移動そのものが体験』といった使い方を海上タクシーでは考えている。これは世界中にあるニーズです」と野間氏は述べている。
「新型コロナウイルス感染症の影響で、人々の考え方が都市化・人口過密から分散・過疎地への移動にシフトしています。我々は団体・過密・効率化の逆を行く。人が少なくなり、多様化でニーズもばらけて採算が取れなくなった場所やサービスであっても、燃料費や人件費の持ち出しがほぼゼロで活用できるのが自動操船ヨットのいいところ」(野間氏)
長期的には当初コンセプトにもあるように、洋上の再生可能エネルギーを水素に変換し、水素運搬での事業展開を目指している。ゆくゆくは、動力や充電のためのドックが必要な飛行型のドローンに、自動操船ヨットが母艦として、洋上でこれらの機能を提供するといったことも考えたいと野間氏は語る。