「このプロジェクトの面白いところは、『こういうデザインをしたいけれども、どうですか』という呼びかけに答えて集まった、いわばボランティアがメインメンバーとして参加していることだ。メンバー取りまとめと場所・機材提供の部分で、FabCafeに協力してもらっている」(野間氏)

船体の設計製造には3Dプリンタを活用。3Dモデリングされたデータを直接プリントアウトすることで、製造期間短縮と製造コストの低減化を実現している。エバーブルーテクノロジーズでは今後、ヨットの素材を環境に優しいものに切り替えることも計画しており、3Dプリンタであればフィラメント素材の変更で対応可能だとしている。

またエバーブルーテクノロジーズでは、ヨット船体の見た目や機能を手がけるA.D.A.Mと対を成すプロジェクト「E.V.E(Everblue Engeneering、イブ)」も発足。E.V.Eでは自動操船に必要な通信やセンサー、フライトコントローラーなどのソフトウェア寄りの技術開発を、外注委託先も交えて手がけてきた。A.D.A.Mとほぼ同時期の2019年4月にプロジェクトを開始したE.V.Eでは、1m級のラジコンヨットを改造して開発テストを実施。2020年春には、葉山から江ノ島への航路で自動航行を実証した。

1m級ヨットによる葉山港〜江ノ島間テストの航跡
1m級ヨットによる葉山港〜江ノ島間テストの航跡

冒頭で述べた5月の実証実験は、船体を大きくすることで、風や波が強い状況でもより安定的に、長距離を航行可能なヨットを実現すべく、A.D.A.Mで開発を進めていた2m級の船体と、E.V.Eで開発済みの自動操船技術を組み合わせたヨットで行われたものだ。

プロジェクトには「仕様を決めて納品物を作る」といったオーダーはないという。「誰もやったことがないから仕様も出せないし、仕様なんてコロコロ変わります。だからコミュニティ型で、みんなが持つ専門技能や知識をうまく活用し、『なるようになるよね』と進めてきました。仕様は最後に決まるし、できたものこそがアウトプットです」(野間氏)

参加するメンバーの立場はさまざまだが、「ゴールに楽しいものを作る」というイメージでプロジェクトが進み、雰囲気は企業の研究開発チームや部活のようだという。野間氏によれば「(展示会など)締切があると、学園祭に出展するために徹夜で間に合わせよう、みたいなテンションになる」そうだ。

「働き方の話にもつながりますが、普段はリモートワークで進めるとしても、現場は海。風や波は変化するし、予報が当てにならないので、定時とか土日休みといったスケジューリングはできない。『明日、天気が良さそうだね』『じゃあ行こうか』といった感じで予定を決めていきます。サーファーのような、自然環境に合わせた仕事の仕方で我々も働いています」(野間氏)