世間ではちょうどCTやMRIなどの領域で「画像診断AI」が話題になり始めていた時期。
心電図の分野でも同じことができるのではないかと考え、田村氏は高校時代の同級生であり、現在は立命館大学情報理工学部で教授を務める谷口忠大氏に相談をした。

「データを集められればおそらく高精度な自動診断支援技術は実現できるだろうが、それだけでは物足りないよねという話になりました。『医者が気づかないような兆候』すらも発見することができれば、本当の意味で社会を変えていける、医療従事者を支えていけるような仕組みを作れるのではないか。そこにディープラーニングが使えるのではないか。とはいえ上手くいくかはわからないので、まずは研究レベルのプロジェクトとしてやってみることになったんです」(田村氏)

そこから取締役CTOとしてアルゴリズムの開発を主導する高田智広氏なども参画。研究開発やヒアリングなどを重ねていくうちに徐々に手応えを感じるようになり、2019年10月には正式に会社を立ち上げた。

同社の強みは実用化する上で必要とされる量のデータを“医療機器開発に利活用できる状態”で保有していて、なおかつアノテーション(教師データを作るために、元データに正しいタグをつける作業)ができる体制を持っていること。田村氏が在籍する国際医療福祉大学の専門医の協力を得ながらアノテーションを行うことで、質の高いデータを準備できたという。

海外ではすでに心電計を手がける医療機器メーカーが自社デバイスで使える高精度な自動診断支援機能を実装し始めている状況だが、単に精度が高いだけでは社会実装は難しいというのが田村氏の考え。カルディオインテリジェンスとしては田村氏のバッググラウンドなども活かしながら、それ以上の付加価値を持った汎用的なシステムの実現を目指す計画だ。

年内にも最初のプロダクトの市場投入を目指す

カルディオインテリジェンスの構想
カルディオインテリジェンスの構想

冒頭でも触れた通り、まずは今年中に最初のプロダクトを市場へ投入するのが目標だ。

AIを活用した医療機器には薬事承認が必要で、そこにある程度の期間と費用がかかる場合も多い。今回カルディオインテリジェンスでは最初のプロダクトを指定管理医療機器の認証基準に沿った形で機能を限定してローンチする。そうすることで、より早く実用化する道を選んだという。

一方で「隠れ心房細動診断支援AI」を搭載したシステムについては、薬事承認を得るためのプロセスを進めていく方針。2022年度までにAI医療機器の実用化開発と医師主導治験を実施する予定で、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が公募した「医療機器開発推進研究事業」にも採択された。