この2つが実用化されれば、患者や非専門医だけでなく心臓専門医をアシストすることにも繋がると田村氏は話す。

田村氏によると心臓専門医は日本で1万人ほどしかいないという。あくまで推定値にはなるが、他の診療科から相談を受けたものだけでも年間約100万件のコンサルテーションを実施しているという。単純計算すれば1人平均100件だ。

専門医のほとんどの業務時間は「治療」に当てられ、「検査や診断」に使えるのは業務時間の10%ほど。その中で上述したコンサルテーションに加えて外来受診にも対応することになる。

「正直時間は全然足りません。検査や診断は専門性が高い一方で、(治療の優先度が高いため)そこにたくさんの時間を使えるわけではない。その業務をAIがサポートしてくれるのであれば助かるという専門医は多いです。何より自分自身もそんなシステムが欲しいと思っていたので、この会社を立ち上げました」(田村氏)

プロダクトの利用フロー自体は説明可能AIと同様だ。非発作時の心電データを読み込ませると、そこから特徴量を自動で抽出し、心房細動の可能性を予測。これまでは限られた診察時間の間でしか評価できなかったものを、AIの助けを借りることでより早期に診断できる技術の創出を目指して開発をしている。

これが実用化すれば、従来24時間分のデータが必要だったところが、数分分だけでも済むようになる。また初診から結果を聞きに行くまでに4〜5回病院に行く必要だったが、それも初診もしくは2回目で数分程度寝ているだけで測定が完了するため患者の負担も減らせるという。

心臓専門医がヘルステックで起業した理由

それにしても、なぜ第一線で活躍してきた心臓専門医がヘルステックスタートアップを立ち上げるに至ったのか。田村氏は自身が現場で働く中で、患者と非専門医の間にギャップがあると感じるようになったことが大きなきっかけだと話す。

「(発作性で病院では症状が出ないことから)心房細動だと診断されていない患者がたくさんいる一方で、専門的な知識がないために自信を持って診断できる医師は少ない。その間を補うのに、テクノロジーが使えるのではないかと考えたのが原点です」(田村氏)

専門医の数を増やせば解決できるかもしれないが、それは現実的ではない上に時間もかかる。それなら汎用的なシステムを作った方が誰にでも使ってもらえる可能性があるのではないか。田村氏はそのように考えた。

「心電図は電気的な波形で構成されている上に取得できるデータ量も多いので、本来は機械学習を役立てやすい領域なんです。実際に以前から自動診断支援技術などが実用化されてきましたが、多くの機器ではいまだに1980年代の機械学習モデルが使用されていて、診断精度などにも改善の余地があります。自分が医者になった15年以上前から大きな技術革新が起きておらず、そこにディープラーニングなど最新のテクノロジーを投入すれば、医者の仕事を助けることや患者を救うことに繋がるはずだと思いました」(田村氏)