同社がロボットの制御手段としてAIによる自律制御のほかに採用しているのが、地上の人間が遠隔で監視・操作する「テレプレゼンス」だ。作業ロボットが置かれている状況の映像や力覚、触感がデバイスを通じて伝達されるため、オペレーターは直感的に操縦することができる。

2021年度に行う実証実験のイメージ
2021年度に行う実証実験のイメージ。船内に取り付けたロボットアームが、これまで宇宙飛行士が行っていた作業を遂行する

2021年度にNanoracksと合同で行う実証実験では、S1をISSのBishopエアロック船内に設置。スイッチ操作などの船内作業や、宇宙用パネルなどの組み⽴てを遂行する予定だ。

Nanoracksが宇宙へのロボット打ち上げの機会を提供し、NASAが輸送やISSへの設置を担当。今回は自律制御を用いた技術実証がメインで、一部ヒューストンのNanoracks管制室からの遠隔操作による実験も行われる。現在はNASAで打ち上げ予定のロボットを審査している段階だ。

今回の実験の成否について、GITAIのFounder&CEOを務める中ノ瀬翔氏は「宇宙では常に何が起こるかわかりませんが、それでも成功する確率はとても高いと考えています」と自信を見せる。今回の結果をもとに、2022年には宇宙船外での実験も予定している。

宇宙の作業コストを100分の1に下げる

GITAIの創業は2016年。これまでSkyland VenturesやANRI、Spiral Venturesなどから3回の資金調達を行い、累計で約6億円を調達している。

同社のビジネスモデルは、汎用型作業ロボットを宇宙機関や民間企業に販売する受注開発だ。売上額は非公開だが、すでに複数の受注を獲得しているという。

「これまで宇宙開発に携わる民間企業は輸送手段に関連した技術を開発することが多く、作業手段にフォーカスした企業は少なかった」と中ノ瀬氏は説明する。しかし、汎用的な作業を遂行できるロボットの需要は着実に高まっているという。

宇宙飛行士1人あたりのコスト
 

GITAIは「ロボットによる宇宙飛行士業務の代替」を目指し、「宇宙で働くロボットを実現させることで、宇宙の作業コストを100分の1に下げる」というビジョンを掲げている。その背景にあるのは、あまりに高額な宇宙飛行士のコストだ。

「宇宙での作業の多くは、宇宙飛行士でなければこなせません。しかし、1人の宇宙飛行士が1年間活動するために必要な費用は約400億円。時給換算すると500万円に相当します。ロボットなら体調管理のための検査や訓練にかかるコストも必要ありません。ロボットの導入で時給を50万円にできれば、宇宙開発のコストを大幅に削減できます」(中ノ瀬氏)