また、地上よりはるかに強い放射線にさらされるため、1人の宇宙飛行士が宇宙空間に滞在できる時間は生涯で2年間程度だともいわれている。安全性の面からもロボットによる代替の需要は高い。

2018年に地上でJAXAと共同で行った実証実験では、スイッチ操作、工具操作、柔軟物操作といったJAXAが提示した宇宙飛行士の作業18個のうち13個をロボットに代替させることに成功。2021年度の技術実証では船内作業の代替がメインだが、宇宙ステーションの修理などの船外作業や衛星への燃料補給・修理など、より幅広い作業を代替できるロボットを開発していく予定だ。

GITAIが進出を目指す宇宙領域
 

 ロボット開発のスペシャリストが集まる技術者集団

前述の通り、民間企業で作業ロボットを宇宙に打ち上げるのは、GITAIの実証実験が初。これに成功すれば、世界で初めて宇宙で作業ロボットの活動を成功させたケースになる。

NASAなどの宇宙機関も開発に注力する中で、日本のいちスタートアップであるGITAIが世界に先駆けて汎用型作業ロボットの技術実証に挑戦できるのはなぜなのか。開発力の根底には、宇宙分野に限らない幅広い分野で高い知識と経験を持つメンバーにあると中ノ瀬氏は説明する。

フルタイムで勤務するメンバーは12名だが、そのうち8名が博士号取得者で、2名が東京大学の助教を経験している。中でも、2019年に入社したCRO(チーフ・ロボティクス・オフィサー)の中西雄飛氏は、二足歩行ロボットベンチャーのSCHAFTを設立し、Googleに売却した経歴の持ち主。中西氏以外でも、家庭や工事現場といった地上での活用を想定した汎用型作業ロボットの開発経験を持つメンバーが多いのだという。

「ざっくりいうと宇宙ロボットには耐久面など宇宙で求められるスペックと機能面でのニーズがあり、多くの組織は前者を万全にすることばかりに専念します。一方、後者のスペシャリストが多い弊社では、宇宙開発に必要な機能を想定してから宇宙機として実現可能かどうかを判断して設計しています」(中ノ瀬氏)

また、GITAIのロボットのソフトウェアやハードウェアはいずれも内製。モーターのドライバーや基盤の組み上げまで自社で行っている。「幅広い領域を自社で製造して一体化させる統合開発力の高さも、宇宙ロボットには欠かせない要素です」と中ノ瀬氏は強調する。

世界的宇宙機関や民間企業と比肩する存在を目指す

2021年度のISS船内での技術実証以降も、22年には船外、24年には月での探査や基地建設の実証実験を予定しているGITAI。宇宙機関や民間企業からの受注も増えており、宇宙で働くロボットを実現させることで宇宙の作業コストを100分の1に下げるというビジョンの実現に向けてさらに活動を進めていく。