TENTの2人は仕事内容やシチュエーションによって飲み物を分けており、特にアイデア出しのときには意識的に日本茶を選んでいる、という。日常の中にもっと「お茶でも飲みますか?」と言えるシーンを増やしたいと考えていた伊藤は、実現のための“道具”の開発を決意する。

この日から、仕事のシーンで自分たち自身が本当に使いたい茶器」をつくる共同プロジェクトが始まった。キーワードは、ひとり用・オフィス用・ひとつで完結。その結果、たどり着いたのが「湯量を計量できる湯のみと、茶葉を置ける蓋」の構造だった。

プロダクトの原型を見てみると、新しい時代の道具らしさと、湯のみとしてのスタンダードさを両立する佇まいを持ったものが完成した。

 

実現困難なデザイン、引き受けたのは岐阜の老舗製陶所

「お客さんの理想を実現するのが自分の仕事。自社ブランドで世界一になれなくても、OEM(Original Equipment Manufacturing。他社の名義やブランド名で販売される製品を製造すること)の世界一、つまりお客さんの理想を叶える世界一にならなれると思ったんです」と語るのは、チャプターの製造を担う丸朝製陶所4代目代表の松原圭士郎氏だ。

丸朝製陶所は国内外の名だたる企業・ブランドの製造を請け負う磁器メーカー。チャプターは蓋と本体のかみ合わせ部分の構造が複雑で、焼き物で再現するにはかなりの技術力が必要だった。ただ、図面を見せて打診した際、松原氏はすぐに「やってみましょう」と前向きな返答をくれた。

 

多くの雑貨店で売られている家庭用食器は、十分な酸素がある状態で短時間で焼く「酸化焼成」で作られる。それに対して、汚れにくさや強度が求められる業務用の食器を多く扱う丸朝製陶所では、ほぼすべての製品を窯の中の酸素が足りない状態で1300度の高温で24時間焼き締める「還元焼成」の手法で製造している。ここにはOEMの世界一を目指す同社が誇る“多治見締め”の製法が使われているのだ。手間と費用がかかるが、この製法によって他には真似できないプロダクトを作ることができる。

この製法であれば、湯のみの内側を素地のままにできるため、釉薬を塗ることで生じる厚みの変化の影響を受けずに済む。内側に複雑な構造を持つ、チャプターにぴったりの製法だったのだ。

リモートワーク時代に特化したプロダクト

3Dプリンターで作った試作品を見ながら修正を繰り返し、ようやく図面上でのデザイン完成が見えてきたタイミングでコロナ禍に突入。サンプル制作を筆頭に、このプロジェクト全体がリモートで進むことになった。