【独自】「1万店の薬局での体験変える」1年間で44億円調達のカケハシが狙う業界変革

Musubiは処方にあわせた薬剤情報、患者さんの健康状態や生活習慣にあわせた指導内容・アドバイスを自動で提示してくれる電子薬歴システム。これを使うことで、薬局で働く薬剤師は患者と一緒にタッチ機能付きの端末画面を見ながら服薬指導を行うことができるため、患者との円滑なコミュニケーションが実現する。

また、服薬の指導中にMusubiの画面をタッチすれば、薬歴の下書きが自動で作成されるため、患者コミュニケーションと薬歴記入が同時並行となる。これまで薬剤師が服薬指導とは別に1日2〜3時間かけていた薬歴記入による業務負担の大幅な削減も可能だ。

オンボーディング手法を全12回の「1on1オンライン研修」に

2015年に厚生労働省が策定した「患者のための薬局ビジョン」。そこで薬局における対物業務から対人業務へのシフトが提唱されていることを背景に、Musubiは薬剤師からの共感を集めるており、リリース以降、導入店舗を拡大。2020年5月から中尾氏と共同で代表を務める取締役CEOの中川貴史氏によれば、この1年間で導入店舗は約2倍に増えているという。その理由を中川氏はこう説明する。

「薬局に導入していただく際のオンボーディング(ユーザーがいち早く操作に慣れ、継続的に利用できるよう導くためのプロセスのこと)の手法をこの1年でガラッと変更しました。これまでは現地に行って2〜3時間の研修会を実施し、Musubiのコンセプトを説明したり、使い方をレクチャーしたりしていたのですが、1回だけの説明では何となく分かった気がするだけで終わってしまうんです」

「薬剤師の中にはITに詳しくない人も当然いらっしゃるので、使い方が不慣れなまま業務に入ってしまうと成功体験が経験できないまま業務を続けていくことになります。そうした事態を避けるべく、すべての薬剤師さんに1on1で全12回のオンライン研修プログラムを新たに実施することにしました」(中川氏)

コンセプトは“薬剤師版のライザップ”のようなもの。薬剤師一人ひとりに専用の端末を3カ月間貸し出し、それを使って専属のトレーナーが薬剤師とビデオ会話をしながら、12週間にわたってMusubiのコンセプトや使い方を教える。実際、このプログラムを経験した薬剤師の7割はNPS(ネット・プロモーター・スコア。顧客ロイヤルティを測る指標)が向上するなど、多くの薬剤師がMusubiを使うことの価値を感じている。

また、取締役CTO(最高技術責任者)の海老原智氏によれば、薬剤師たちからのフィードバックをもとにUX(ユーザー体験)の向上など、サービスの細かな改善を重ねたことが高評価にも繋がっているという。