「そのとき、飲み仲間として出会い、その後顧問(現:監査役)になって頂いたスダックス代表の須田仁之さん(編集注:アエリアの元CFO。エンジェル投資を行うほか、スタートアップ複数社の顧問などを務めている)に相談し、いくつかVCを紹介してもらいました。そのなかの1つだったデジタルガレージに話をしに行ったんです。そこから、トントン拍子で出資が決まりました」(土屋氏)
思ってもみない展開だが、こうしてグッドパッチは初めての出資を受けたのだった。
「上場」に対する考え方を変えたのは、元はてな近藤氏
出資を受け、精神的にも後ろ盾ができた土屋氏は、採用強化やオフィス移転などを行う。そして、グッドパッチ自体の今後も考え始めた。グッドパッチは社会に対して何をしたいのか、何ができるのか──。そこから逆算し、言語化したのがビジョンである「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」と、ミッションの「デザインの力を証明する」。
「日本における『デザイン』は、表層や装飾だけという誤解している人が多いです。でも、デザインにできることはそれだけじゃない。本当にサービスを良くしようと思えば、見える部分でのデザインだけでなく、ユーザー体験の向上、ひいては事業そのものもデザインすべき。そういった観点の整理とグッドパッチがやるべきことを言語化し、改めて腹をくくりました」(土屋氏)
グッドパッチを会社として残し続ける方法を探るなか、土屋氏の頭をかすめたのが「上場」の文字だった。もともと上場を考えていなかった土屋氏としては大きな心境の変化だが、一体何があったのか。話は、デジタルガレージから出資を受ける少し前まで戻る。
「元はてな代表の近藤淳也さんと食事する機会があったんです。そこで上場の意味を聞いてみると、近藤さんは『上場は会社にとっての成人式』と言っていて。あと、印象的だったのが『自分が尊敬する起業家はみんな、わざわざ面倒な道を選んでいる。だから僕も上場を目指した』の言葉。確かに、僕が尊敬する起業家はみんな、苦しいと知っていながらも上場を選んでいました。ずっと不思議だったことですが、近藤さんの言葉で腑に落ちたんですよね」(土屋氏)
これをきっかけに、土屋氏のなかにある「上場」への考えが変わる。当然ながらM&Aも選択肢に入っていたが、思い切って捨てることを決めた。
「今後、グッドパッチのようにデザインの力を証明するというミッションを掲げる会社は出てこないかもしれません。そう考えるとM&Aを選択肢に入れてはいけないと思ったんです。会社として残し続けるために、上場を目指すことを決めました」(土屋氏)