「問題は、経営陣への信頼がまったくないこと」

グッドパッチと言えば、避けて通れないテーマが「組織崩壊」だ。ちょうど50〜100名へ拡大する組織フェーズで、グッドパッチは「経営と社員の二項対立」に陥った。これについては土屋氏も、多くのインタビューやブログで「完全に組織は崩壊していた」と語っている。

「グッドパッチは、しっかりとした組織体制を整えられないまま50名規模へ突入しました。初期メンバーは全員退職し、クライアントにもデザイナーを引き抜かれてしまう始末。急ごしらえでマネジメントレイヤーを設けましたが、離職率は2年連続で40%のままでした。つまり、離れようとする社員を引き止められような組織じゃなかったんです」(土屋氏)

「これは組織崩壊だ」とはっきり感じたのは、グッドパッチ創立5周年の社員総会のときだ。総会の1週間前にサンフランシスコへ出張していた土屋氏は、社内の情報共有ツールで見た投稿に仰天した。

そのタイトルは「社員総会に出るべきではない5つの理由」。現状の組織運営に異議を唱える社員が、このような状況で総会に出るべきではない、と理路整然とした内容が書かれていた。これに対して賛成する人、反対する人ともにいた社内で、瞬く間に大炎上した。結局強行した社員総会の場は静まり返り、聞こえるのは会場の隅で誰かがタイピングする音だけだった。

「組織回復のためにいろいろやりましたが、どれもダメで。わかったことは、経営陣がまったく信頼されていなかったことでした。それに対して、僕を含め、経営陣みんなが気づいていなくて。ある日、全社員に向けて『問題の本質は、経営陣への信頼がまったくないことだ』と言い切りました。今思えば、これがスタートラインになっていましたね」(土屋氏)

その日から、土屋氏は全社員との1on1(1対1でのミーティング)を実施。さらに、グッドパッチのビジョンとミッションをひも解き、バリューを再構築した。このときを知る社員は後日、土屋氏に「あのとき、社長がそう(経営陣への信頼がないと)言えるなら大丈夫だと思った」と話している。

「組織崩壊していましたが、それでも『デザインの力を証明する』のミッションに共感してくれる社員はいました。そこで、ミッションの実現に向け一枚岩となるためにバリューを再構築したんです。それが浸透し『組織崩壊から抜けた』と感じたのは、あの社員総会から2年経ったころでした」(土屋氏)

組織の共通言語を持てば、企業価値は上がる

組織崩壊を乗り越え、マザーズ上場を果たしたグッドパッチ。上場時の会見では、「デザイン領域で売上高100億円を目指す」と語った土屋氏だが、今回発表された決算では、着実にその目標に向けた一歩を踏み出していることをアピールした結果となった。