「漫画村」騒動がサービス開発の契機に
18年10月にSupershipの取締役を退任し、再び起業家として挑戦する道を模索し始めたという古川氏。当初はECサイトを提供しようと考えていたが、結局サービスを公開することなく、事業をピボット(転換)した。「マンガ」を事業に選んだのは、18年に世間を騒がせたあるサービスがきっかけだという。
そのサービスは「漫画村」。違法にコピーされたマンガや雑誌の電子版を無料で閲覧できるサイトだ。すでにサイトは停止しているが、コンテンツ海外流通促進機構(CODA)によれば、権利者に約3000億円の被害を与えたという。悪質サイトのブロッキングについても議論を巻き起こした。
無料で海賊版のマンガが読まれれば、単行本や電子書籍が売れなくなり、権利者の収入も減ってしまう。だが一方漫画村は、さまざまな出版社のマンガを1つのサービスで読めることの便利さも示した。この騒動をきっかけに、古川氏は親交のあるエンジニアと「漫画ビレッジ」というサイトを立ち上げた。漫画ビレッジは、これまで出版社各社のアプリやウェブサイトでないと読めなかったマンガを横断して検索、閲覧できるサービスだった。これがアルの原型になっている。
漫画ビレッジの公開後には、大手出版社の役員からも相談があった。ユーザーの利便性という意味でも漫画村に課題を突きつけられた出版社。だが各社それぞれがサービスを展開している状況で、横並びで新しい取り組みを行うのは難しい。あくまで例え話だが、Netflixのような定額読み放題のようなサービスを出版社横断で作れるわけでもない。であればまず、出版社を横断してマンガの情報が集まる場所を作るのはどうかという話になり、「マンガが好きで、今新しいサービスを作れる起業家がいるか」と考える中で、古川氏は自身が立ち上げるのが最適だと考えた。
また古川氏は、「世の中にはたくさんのマンガがあるが、まだまだ読者とマンガが出合っていないのではないか」とも考えていた。以前に古川氏があるマンガをブログで紹介したところ、ブログを経由して3000冊ほどのマンガが購入された。マンガの面白さについて熱量を持って伝えれば、今までそのマンガを知らなかった人も単行本を購入するし、すでにそのマンガを(無料配信などで)知っている人も、もっと好きになって単行本を購入する。そういったファンの熱量を伝える投稿サイトがあるべきだ、というところから生まれたのがアルだ。