DAIZ執行役員・最高技術責任者を務める落合孝次氏は取材の席でこう切り出し、自らが手がける大豆由来植物肉について語った。

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 大豆を原料とする植物肉自体は、何も日本で新しいものではない。だが、これまでの植物肉は大豆搾油後の残さ物を主原料としているものがほとんど。味と食感に残る違和感、大豆特有の青臭さや油臭さ、肉に見劣りする機能性の低さといった課題が残っており、本格的な普及には至っていないというのがDAIZの主張だ。

 この課題を解決し、大豆の食感や風味を本物の食肉に近づけるのが、DAIZが「落合式ハイプレッシャー法」と呼ぶ、特許取得の独自技術だ。豆の発芽中に、酸素、二酸化炭素、温度、そして水分などを調整し、あえて厳しい生育条件にしてプレッシャーを与えることで酵素が活性化、遊離アミノ酸量が増加し、大豆のうま味を引き出すというもの。

 加えてDAIZの植物肉は、独自の膨化成形技術により、他の原料や添加物を何も足さずに肉のような食感を再現している。落合氏いわく、原料は「穀物の大豆」ではなく、芽を出してアミノ酸、ビタミン、ミネラルが急激に増加した、「植物になった瞬間の大豆」だ。さらに大豆のアミノ酸組成を変えることで、豚肉に近い味、魚肉に近い味、牛肉に近い味、といった具合に味の調整を行うことができると落合氏は説明する。

「おいしい植物肉」にたどり着いた男の“発芽バカ”一筋30年DAIZの植物肉原料を使用したハンバーガー  Photo by N.H.

 インポッシブル・フーズはハンバーガーの肉汁を再現するために遺伝子操作された大豆レグヘモグロビンを使用し、その安全性が懸念されていた(のちに米食品医薬品局=FDAが認可)。一方でDAIZの植物肉原料は「素材そのものに力がある」(落合氏)ことをウリにしている。

 筆者もDAIZが開発する植物肉を試食したが、本物の肉と比較しても不自然な臭さやクセは感じられない。ジューシーさには欠けるものの、これまで市場に出回っていた「大豆ミート」と比較すると、段違いにおいしい。竜田揚げやナゲットのような、肉が塊になっている調理法では大豆の風味があるが、タマネギや香辛料を使って調理したハンバーグでは大豆由来であることに気がつかないほどだった。

植物肉を使ったナゲット。見た目は一般的なチキンナゲットと変わらない Photo by N.H植物肉を使ったナゲット。見た目は一般的なチキンナゲットと変わらない Photo by N.H

米国で起業するも断念、スタートアップで生かす発芽技術

 落合式ハイプレッシャー法を開発したのはその名が示すとおり、落合氏本人だ。同氏は30年もの間「発芽」にまつわる研究を続けてきた。

 落合氏は近畿大学農学部を卒業後、大手食品会社に10年ほど勤めた。そして2002年にカリフォルニア州ナパにてバイオベンチャーを立ち上げた。ナパに渡ったのは食品会社に勤めていたときのこと。もやしの工場をカリフォルニアに立ち上げ工場長を務めたが、価格を下げることに注力する同社の事業に物足りなさを感じ、起業に至った。