「人がやっていることはやりたくなくて。人がやっていると聞いた途端にやる気がなくなるところがあります。いかんなとは思うんですけどね(笑)」(落合氏)

 だが根っからの技術者である落合氏にとって、起業家として事業を伸ばすことは「お金の心配がいらなかった」と振り返るサラリーマン時代とは比較にならないほどの困難続きだった。経営は火の車、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家らから出資を受けていたものの資金はショートし、ついには会社を清算するに至った。

 事業の仕切り直しのため、帰国して拠点を滋賀県へと移した落合氏。再び事業を始めるも失敗し、そのショックから「琵琶湖に飛び込もうかとも考えた」と振り返る。

 そのときにふいに思い出したのが、ある経営者の顔だった。その経営者とは、井出剛氏。日本最大級の有機栽培ベビーリーフメーカーで、DAIZの関連会社でもある果実堂の創業者だ。落合氏が帰国した後に参加した経済産業省主催のシンポジウムがきっかけで出会って以来、2人は親交を温めてきた。

「30年も発芽を研究していてベンチャーをやっていることにとても興味を持ってもらえた。売れ残った発芽大豆を引き取って社員に配ってもくれた。そういう師弟関係があり、経営の相談にも乗ってくれたりする温かい人だ」(落合氏)

 落合氏は井出氏の誘いから果実堂に入社することを決意する。DAIZは2014年に社内の「発芽促進研究所」として活動を開始した。そこで会社員、起業家とステージを変えつつも30年間研究を続けた“発芽バカ”・落合氏の集大成ともいえる植物肉事業がスタートした。この事業を本格化させるため、2015年にが果実堂から分社化したのがDAIZ(当時の社名は大豆エナジー)だ。代表を井出氏が務めることで、落合氏は引き続き、研究に注力できる体制をとった。

米ビヨンド・ミートの上場が“追い風”に

 落合氏にいつ頃から「植物肉」に着目していたのか。聞くと「僕は(2009年の)丑年、『牛を発芽大豆に置き換えるとどうなりますか』という年賀状を書いていた。しかし当時は誰も興味を示さなかった」と振り返る。同氏いわく、植物肉に“追い風”を強く実感したのは、つい昨年のことだという。

「ビヨンド・ミートが2019年5月に上場し、国内の食品メーカーまでもが動き始めたことで風を感じた。年賀状を出した2009年には、誰の心にも響かなかったが、今は違う」(落合氏)

 代替肉が注目を集めているのには、人口増加に伴う肉の消費量の増加、不足するであろうタンパク質源を代替肉で埋めようと試みるスタートアップの台頭、そしてテクノロジーによる代替肉の味や品質の向上、といった流れが理由としてある。そして一般消費者が熱狂する背景には「フレキシタリアン」と呼ばれる、週に数回ほど意識的に動物性食品を減らす食生活を送る、環境や健康への意識の高い若者が増えてきていることがあると落合氏は分析する。