リーマンショック前までのVCと言えば、金融機関系の子会社、もしくは商社の子会社が大半を占めていたが、リーマンショックを契機にVC業界の構造が変化。企業に直接出資するのではなく、LPとしてVCに出資する流れが2015年以降に増えていった、という。
その結果、個人がGP(ジェネラル・パートナー。無限責任のファンド出資者。実質的には投資を実行するVCやキャピタリスト)となる「独立系VC」の立ち上げが増え、シード期のスタートアップに投資するプレーヤーが増えた。実際、日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の会員も240社を超える規模になっている、という。そうした状況を踏まえ、代表パートナーの和田圭祐氏はこう振り返る。
「10年前、創業初期のスタートアップに投資するVCはとても少なかったのですが、今ではシード・アーリーステージの企業を対象に投資するVCが増えましたね。資金の出し手が変わったことで、起業する人の顔ぶれも変わり、イノベーションを起こす領域がどんどん外に広がってきた。この10年で“村社会”から脱しつつあるな、と思います」(和田氏)
設立時、ゲームを中心としたC向けサービスへの投資が目立っていたインキュベイトファンドだが、時代の流れとともにB向けサービスへの投資が増え、最近ではディープテック、ヘルスケア、ライフスタイル領域への投資も注力している。
具体的には、落合陽一氏が創業したピクシーダストテクノロジーズへの投資がそうだろう。同社への投資を担当している、代表パートナーの村田祐介氏はこう語る。
「ここ数年で、コンシューマー向けのネットビジネスを手がけていた人たちが、ディープテック領域に参入し始めた。個人的に印象的だったのはショーン・パーカー(Facebook初代CEOでもある実業家・投資家)が、がん免疫療法研究所『Parker Institute for Cancer Immunotherapy’s(PICI)』を設立したことです。あのインターネット長者だった、ショーン・パーカーが『がんと戦う』と言っている。インターネットと直結するような領域から“はみ出た部分”にイノベーションの可能性を感じましたね。実際、2014〜2015年頃まで起業家はコンシューマー畑の人しかいなかったのですが、それ以降はSaaS系が増え、ディープテック、ヘルスケア領域も増えています」(村田氏)
スマートフォンのガラスの中で起きていたイノベーションが、リアルな産業へと広がっていき、それが結果的に伝統産業領域のDXや公共サービスのイノベーション、ディープテックのイノベーションへの注力へと繋がっている。