「この10年間を振り返ると、やはり2015年以降に起きた変化がインキュベイトファンドにとっても、VC業界にとっても大きかったと思います。B向けサービスの流れに加えて、ディープテック、ヘルスケア、ライフスタイル領域に関しても投資をし始めた。そういう意味で、今回新たに立ち上げたファンドは公共性の高い社会課題の解決を加速していくためのものです。テクノロジーがスマートフォンのガラスの中からDXのフィールドに入り、スタートアップがディープテックもカバーし始めている。そこに対して、我々も追いついていきながら、イノベーションを仕掛けているのが10年の変遷かな、と思います」(本間氏)
医者や研究者たちをスタートアップ側へ
新たに立ち上がったファンドの特徴は“規模感”もそうだが、創業期からプレIPO期まで一気通貫でスタートアップを支援する点にある。
「これまでの4号ファンドを通じて、自分たちで最初から最後のラウンドまでリードできる形のファンドを作りたい、という思いが強くなっていきました。創業期から大きな資金がある前提で立ち上げるスタートアップと、数千万前半で立ち上げるスタートアップでは事業の戦略が大きく変わってくる。例えば、最初から20〜30億円の資金がないと挑戦できないプロダクトはあると思っています。だからこそ、このファンドを通じて20〜30億円の資金があって初めて価値が発揮できるマーケットにトライする流れを作っていけたら、と。そういう意味で取り組む意味合いは大きいのかなと思っています」(村田氏)
例えば、リーマンショック以降は“リーンスタートアップ”という概念が流行り、いかにコストをかけずに最低限の製品・サービス・機能を持った試作品を短期間で開発できるか、が重要視されてきた。本間氏は「今でも有効なイノベーションのスタイル」だと前置きしながらも、「ディープテック領域に関しては『3000万円出資します』と言っても、博士課程の人が大学院を辞めて起業するのは、どうしても現実的ではなかった」と語る。
「ただし、VC側も現在の境遇と変わらないような環境でチャレンジできる。何なら研究費よりも投資額の方が大きい、という代替手段を明確に出せるようになってきたので、『それならば外でチャレンジした方がいいかも』と、今まで起業を考えもしなかった医者や研究者たちが起業するようになった。より安全に、リスクを取らず起業できる環境を整えることで医者や研究者がスタートアップ側に来るのは大きな意味があると思います」(本間氏)