「スタートアップが成功したら、年金が増える」という社会のエコシステムをまわす
また、“起業家の数を増やす”という点において、村田氏は「今回のファンドにLPとして、年金基金をはじめとした機関投資家が参加してくれたことは大きな意義がある」と言う。
村田氏いわく、2年前のデータでは日本国内のファンドレイズにおける機関投資家の割合は全体で0.7%しかない。一方、アメリカは全体の3分の2を機関投資家が占める。そうした状況を踏まえ、村田氏が企画部長を兼務するJVCAでは、国内VC24社が2000年から18年に設立したファンド76本を対象に、運用成績を表すベンチマーク(指標)の開示を始めている。
「起業家が増えない理由は、彼らの社会的地位が一向に上がらず、尊敬されないから。この20年を振り返っても、市場が盛り上がったタイミングで何らかの不祥事が起きたり、注目されていた会社が凋落したり、社会的地位が上がりそうなときに落ちることを繰り返してきている。その理由を考えたときに、国民がスタートアップのステークホルダーではないことも大きいのかな、と思いました」
「アメリカはVCが機関投資家から資金を集めて、ファンドレイズする。その資金をスタートアップに投資し、スタートアップが成功するとリターンが国民に跳ね返ってくる。どこまでの人が理解しているかはありますが、この構造があるからこそ、アメリカではチャレンジする人を尊敬する習慣ができあがっていると思うんです」
「そういう意味で、自分は機関投資家の中でも特に年金基金が大事だと思っています。スタートアップが成功したら、リターンで年金が増える構造は分かりやすいじゃないですか。社会のエコシステムが大企業とスタートアップで回っていた部分が、国民全体で回っていくようになると、もう少し尊敬されるようになると思うので、今回年金基金がLPに参加してくれたことは大きい出来事だったと思っています」(村田氏)
実際、国内VCの運用成績を調べてみると、ファンド出資者への分配は2012年から4年連続で増加し、2015年には76本のファンド全体で総額1000億円近くの分配を記録した。2010年から2014年の間に設立された、ファンドのネットマルチプル(中央値)は1.5倍以上、ネットIRR(内部収益率)の中央値は14%を上回る(2018年末時点)など、優れたリターンを上げていることが判明したという。
「海外の投資家とよく話しているのですが、まず運用成績のデータが載らなければ認識すらされない。今でも『日本にVCのマーケットってあるの?』と言われることがあります。きちんと機関投資家が認識できる形でデータを出せないファンドは、結婚情報誌に載っていない結婚式場みたいなものです。掲載された初めて比較されて、大きいお金を集めていける。今回、運用成績を表すベンチマークを開示したことで、業界にも変化が起こり、お金の流れも変わってくるのではないかな、と思います」(本間氏)