そのせいで、水中を点検・調査するのが困難なままになっていた。例えば、日本のダムの多くは50年以上前に作られており、点検には潜水士が必要で危険が伴うため、底まで調査するのは難しい。また、魚の養殖においては、生育状態や定置網の状態を確認する手段がなく、勘と経験に頼り切った状況だった。洋上風力発電などの海洋産業や海底資源を掘る石油探査でも、調査や点検が大掛かりになり、コストがかかりすぎるという課題感があった。そこに、FullDepthの水中ドローンの「手軽さ」が、ぴったりはまったのだ。

 空中ドローンが当初ホビー用として流行し、その後産業に活用されていったのと同様、水中ドローンもFullDepthが開発を始めた当初は、ホビー用が主流だった。その中で、地道に実証実験を重ね、2018年6月にサービス提供を開始。さらに同時期、神奈川県相模湾沖で、水中ドローンでは世界初の深海1000m域にまで到達し、深海生物の調査も達成した。

 その後も順調にサービス化を進め、2019年5月には、Drone fundをリードインベスターとし、Beyond Next Ventures、三井住友海上キャピタル、筑波総研を引受先とする総額3.4億円の資金調達を実施した。

“人でなくてもできる”部分をロボットに

 FullDepthの水中ドローンは、主に水中の構造物の点検に利用される。販売モデルを中心に、月額20万円からのサブスクリプションモデルも実施している。

「水中機材は過酷な現場でトラブルが付きもの。実際に船で調査する地点まで行っても、構造物が見つからなかったり、何らかの要因で動けなくなったりすることがあります。 そんな時でも、必ず潜れる状況を作る保証付きビジネスモデルとして、保守メンテナンス・保険・機材レンタルをセットにしたプランを用意しています。万が一トラブルがあったら、すぐ代替機を使うことも可能です」(伊藤氏)

 現在、設計から開発、製造まですべて自社で実施しており、今後は画像処理やソフトウェアの技術を伸ばしていくために、業務提携にも積極的な姿勢だ。

海のグーグルマップを作る

 海洋調査無人探査機の世界市場は急成長を遂げており、伊藤氏によれば「2022年には5500億円へと拡大する見込み」だと言う。もともと、資源探査や科学調査などが市場の中心であったが、水中ドローンの誕生によって、それ以外のインフラや水産業などに市場が拡大したことが要因だ。仕事の過酷さから潜水士の人数が減少している背景もあり、需要は急速に増えている。