ドローンの世界には4段階の飛行レベルが存在する。レベル1が「目視での操縦飛行」、レベル2が「目視内での自動・自律飛行」、レベル3が「無人地帯での目視外飛行」、レベル4が「有人地帯での目視外飛行」だ。空中ドローンはレベル3までクリアしているが、水中ドローンはまだレベル1の段階にある。
FullDepth代表取締役の伊藤昌平氏は「水中ドローンも、レベル3まで進化させたい」と意気込む。
「陸上や空中のドローンは色々な種類があるのに、水中ドローンはまだ種類がありません。深海は、陸上の技術をそのまま使えず、深海そのものすらまだ解明できていない特殊な領域ですが、それぞれの産業の課題に合わせてソフトウェア・ハードウェア両面で開発を続け、水中のプラットフォームを目指したい」(伊藤氏)
深海好きのロボット開発者
伊藤氏は、子どもの頃からロボットと深海生物が大好きだった。筑波大学に入学し、ロボットの試作開発に没頭する中、偶然観たテレビの特集で、子どもの頃に図鑑で見た深海魚「ナガヅエエソ(三脚魚)」に再会した。
「テレビを観ていてふと、『人が潜ることのできない深海の映像を、どうやって撮影してるんだろう?』と疑問に思ったんです。そして、ロボットが撮影していると気付き、いつか自作のロボットで深海を冒険してみたいという気持ちが芽生えました」(伊藤氏)
これを契機に、まずは趣味で水中調査ロボットを作り始めた。その後、2014年6月にfulldepthの前身である空間知能化研究所を立ち上げ、ロボットの受託開発に従事。その後、「本当にやりたい深海ロボットの開発をしよう」と改めて思い至り、海洋調査分野の学術機関へ、市場の課題のヒアリングを開始した。いざ、市場を調査してみると、「水中のことは、いまだによくわからないことだらけ」だと思い知ったという。
「水中を調査しようとすると、潜水士が潜るか、調査用の大型ロボットを稼働させるしかありません。人が潜ると危険がつきまといますし、大型ロボットを稼働させるには1日1000万円単位の大幅なコストがかかってしまう。そのせいで、これまで深海を調査する機会は限られており、知る手段がなかったのです」(伊藤氏)
水中はよく「宇宙と似ている」といわれるほどに、地球上にありながらにして未知の領域だ。深くても浅くても、冷たい水の中に入るだけで人の体には負荷がかかり、命に危険が及んでしまうため、潜っている時間は最小限に抑えなければいけない。また、既存の遠隔操作型の無人潜水機は、主に研究機関向けに受託開発されるため、どれも一点モノで高コスト、かつ大掛かりなものばかりだった。