しかし、多くのドライバーは真面目に働いていて、支払い能力も十分にある。そこに目をつけ、IoTとFinTechの分野から貧困問題を解決しようしている企業が、Global Mobility Service(以下、GMS)だ。

 GMSの代表取締役社長の中島徳至氏によれば、ローンを利用できない低所得者は、世界に17億人いるという。GMSは、ローンで商売道具となるモビリティを購入する手段を用意することで、貧困にあえぐドライバーたちを救う「金融包摂型のFinTechサービス」を、フィリピンをはじめ東南アジア諸国で展開している。

貧困層が金融機関にアクセスできる与信作り

 GMSの提供するサービスの最大の特徴は、車やバイクなどのあらゆるモビリティのエンジン起動を遠隔制御できるIoTデバイス「MCCS」にある。これにより、モビリティの稼働状況をリアルタイムで正確に把握することができるのだ。稼働状況とは、即ち支払い能力であり、与信情報である。つまり、各ドライバーの働きぶりから支払い能力があるかどうかを正確に判断し、新たな信用をつくることができるのだ。

貧困層の「クルマ購入」を支えるFinTech、貸倒率1%の次世代ローンGMSが提供するIoTデバイス「MCCS」 画像提供:GMS

 金融機関は、MCCSのセンサーから受信される利用データをもとに、与信情報を取得できる。万が一、支払いが滞った場合は、車両を遠隔で制御して支払いを催促。金融決済システムとの連携により、支払いが完了した3秒後にはエンジンを再起動する。“商売道具”のエンジンの起動を遠隔制御しているので、支払いのできないドライバーは一目瞭然で、金融機関のリスクは最小限で済む。

 低所得層のファイナンス利用の可能性を広げ、貧困地域の経済発展に寄与するのはもちろんのこと、自動車メーカーにとっては販売台数の増加、金融機関にとっては融資先の増加につながり、各方面にメリットを生むビジネスモデルといえる。

 このサービスは、世界の貧困層を救う新しいFinTechとの評価を受け、2019年度グッドデザイン賞(応募総数4772件)でグッドデザイン金賞を受賞している。

「ほかのFinTechとの大きな違いは、ターゲット。すでに金融を使っている人たちをより便利にするものが主流の中、GMSのサービスは『これまで金融へアクセスができずにファイナンスを必要としている人』を対象にしています」(中島氏)

 GMSはフィリピンをはじめ、カンボジア、インドネシア、日本の4ヵ国で事業を展開。これまでGMSのサービスを利用した車両の台数は累計約1万台で、総走行距離でいうと約1億km、なんと地球約2500周分に及ぶ(2019年11月時点)。