「金融機関のエコノミクスを変えることが、持続可能な社会を実現する上で、最も重要なもの。私たちは技術やオペレーションを駆使し、社会課題を解決しながら経済合理性を創出していきたいのです」(中島氏)
イノベーションに必要な「巻き込み力」
GMSのサービスは、参入障壁が高い。「政府」「提携企業」「金融機関」の三方の協力が、同時に必要となるからだ。今でこそ、各国の制度や文化を理解したグローバル展開の知見、投資家や大企業が興味をもつ高いITとビジネスモデル、金融機関を納得させるFinTechサービスの3点を実現できたが、「軌道に乗るまでは大変だった」と、中島氏は振り返る。
これまで3度起業をしているという中島氏。GMS創業のきっかけは、起業2社目の電気自動車メーカー時代のことだった。排気ガス問題が深刻なフィリピンで、電気自動車の普及を政府を巻き込みながら進め、事業は拡大した。だが、普及が進めば進むほど、「車を売るだけじゃ解決できない問題がある」ことに気付いた。
「フィリピンでは、銀行口座ももっておらず低賃金で働く人がほとんど。いくら品質の良い自動車をたくさん作っても、ローンが利用できない低所得者層はずっと買えないままだったんです。どんなに真面目に働いても、貧困から抜け出せない現実。この社会構造そのものを変えていかなければならないと考え、GMSを創業しました」(中島氏)
2013年の創業後、すぐにフィリピンで1000人のドライバーへ市場調査を開始した。最終的な目的である社会課題の解決のためには、ドライバーのニーズを聞き出す作業は必要不可欠だったためだ。調査して分かったのは、多くのドライバーたちがこの”搾取構造”について「当たり前」と捉えていたということだった。毎日借りている車が自分のものになる日が来るなど、夢にも思っていなかったのだろう。
社会課題の解決につながる大きなニーズをつかんだ中島氏は、まず、フィリピン政府に話をした。フィリピンでは、市民の生活の足として根付いているトライシクルの排気ガスによる大気汚染が、深刻な社会問題となっていた。政府は、排気ガスの多い旧型車両の取り締まりを強化しようとしたが、ドライバーがローンを組めないために新型車両の購入ができず、80%以上の車両が旧型車両のままだった。そのため、GMSのサービスにより少しでもこの状況が改善につながるなら、と好意的だった。
金融機関は当初、及び腰だった。そこで、GMSが提供する低所得者の与信データに安心してもらうため、実績作りから始めた。GMSが自らドライバーに融資を実施し、エンジン起動と決済システムを連携させて実装したのだ。その結果、金融機関が提供する通常のローンの債務不履行(デフォルト)が15~20%であったのに対し、GMSは1%を切る実績を上げた。この成果によって、金融機関との提携が実現した。