創業から2、3年は焦りしかなかった

――今日はよろしくお願いします。辻さんが起業して、一番大きかった失敗をお伺いする会になります。具体的なことをぜひ教えていただきたいと思っています。

 いっぱい、失敗ばっかりしているんですけどね(笑)。一番覚えている失敗は「人」に関することです。マネーフォワードは6人で創業して、今は社員数が700人にまで増えたんですけれども、創業から2、3年の頃は、焦りしかありませんでした。

(当時は)すごいブラック企業だったんです。もちろん本人たちは楽しくてやっているので、「やらされている感」はないんですけれども。何もないところから結果を出さないといけないし、プロダクトを作らないといけない。ただただユーザーだけを見て、すごい集中力でやっていこうと考えている状況です。

 創業当時のオフィスはワンルームでした。そこから移転して20人、30人とメンバーが増えてくると、当たり前なのですが、熱量や思いの違う人も入ってきます。ですが当時は、焦っていて「いろんな働き方や価値観があるんだな」と理解できず、「なんでここまでしかやらないんだろう」「なんなんだこのコミットのなさは」とイライラしてしまうことがありました。

――会社がつぶれるかどうかというところで戦っているのに、「この温度感の差はなんだ」となったということでしょうか。

 もちろん、みんなも「やらないと会社がつぶれる」とは分かっているんです。ですが、どこまでやるか、どこまでこだわるかというクオリティーは人によって違います。極めて能力が高いメンバーで会社をスタートしたので、(新しいメンバーとの間で)ギャップが生まれてしまいました。僕の要求の仕方も上手じゃなかったんです。怒りをぶつけるみたいになってしまいました。

「認めているから、期待している」と伝えられなかった

 相手のことを理解してないのに、怒りを押し付けるコミュニケーションになってしまった。すると関係がうまくいかず、退職してしまう。“ベンチャー”という船なんて、いつ沈むかどうかも分からないじゃないですか。ですが、「沈みゆく船から逃げるのか。仲間だと思っていたのに。最後まで頑張るって言ったじゃないか」と思ってしまったんです。寂しくなるじゃないですか。みんなで新天地を見つけるために新大陸に向かっていたつもりが、自分だけ飛行機で帰ってしまうのか、と。

 もちろん、退職って会社や経営者に不満があって起こることなので、つまりは経営者の力量不足なんです。今思えばそう言える話も、当時は自分のせいにできない焦りがありました。そういう怒りをぶつけて、相手を傷つけることがありました。